白と黒の宴 38


(38)
昨日と同じなのは軽く食事をして薬を飲んだところまでだった。
違ったのはベッドルームに移動することなくその場で抱きあい唇を重ね合った事だ。
一つキスを交わす度に緒方は眼鏡を外しネクタイを解いていく。
今朝緒方の身を固めたスーツや衣服の類いはソファーの下に脱ぎ捨てられた。
昨夜これ以上はないと言う程確かめ合った互いの唇の感触を貪り合う。
緒方は、今日手合いがあったはずである。
キスの合間にふとアキラの表情が曇ったのを緒方は見逃さなかった。
理由をすぐに察しアキラの頬を両手で包む。
「…オレを誰だと思っている」
一瞬だけ棋士の顔になり、そして愛しい者を目の前にした一人の男の顔に戻る。
朝の冷ややかだったあの態度は己の欲望に対する彼なりの必死の抵抗だったのだろう。
吹っ切らなければこの部屋で一日アキラを抱き続けてしまう。
そう切り替えるだけの理性を彼はまだ残していた。
それでも対局を終えてここへ帰って来るまで不安でしょうがなかった。
ソファーの上で裸身のまままどろむアキラの姿を見て、昨夜の事が現実であった事を
改めて実感したのだ。
緒方はアキラの手を取り、指先から甲、手首、肘へと何かを確認して行くように眺め、
キスを繰り返して行く。
額から頬、耳、首、そして胸、腹部、そこから足先へ移り、膝、もも、その内側へ。
くすぐったいような恥ずかしいような感覚が混ざりあってアキラは躊躇し、身を縮めようとした。



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