病床小アキラ 38 - 39
(38)
緒方さんのおでこに手を当てると、アキラくんのお父さんは眉を顰めました。
「ひどい熱じゃないか」
「……すみません」
「いや、謝らなくてもいいんだが」
お父さんが手を退けると、正座したお父さんの隣に座っていたアキラくんもすかさず小さな
右手を緒方さんのおでこに乗っけます。そして難しい顔をして左手で自分のおでこを触り、今
度は伸び上がってお父さんのおでこに触りました。
「おがたくんだけあついねぇ」
本当に判っているのかいないのか、アキラくんはいっちょまえにそんなことをコメントして、
小さな自分のおでこを緒方さんのそれにごっつんこさせます。寄せる波のように緒方さんを苦
しめていた頭痛はその衝撃のせいか一層強くなりました。
緒方さんは内心困ってしまいます。
「こら、緒方くんが迷惑するだろう」
その困惑を感じ取ったのか、お父さんはひょいとアキラくんを持ち上げると隣に座らせました。
(39)
「ねぇ。おがたくんのおでこ、とってもあついよ」
目を閉じている緒方さんの耳に、一生懸命お父さんに訴えているアキラくんの舌足らずな声が
聞こえてきます。
「昨日のおまえのおでこもとても熱かったんだよ」
「ほんと〜?」
「どれ今日は――下がったみたいだな」
「えへへ」
どうやらアキラくんとお父さんは、昨日できなかった親子のふれあいを楽しんでいるようで
した。
きゃっきゃっとご機嫌なアキラくんの声が続きます。緒方さんはけだるそうに薄目を開け、
眼鏡を外して枕元に放りました。それを丁寧に畳みながら、お父さんはちらりと横目でアキラ
くんの様子を窺います。
緒方さんの顔の前に正座していたアキラくんは、モゾモゾとさりげなくお父さんの膝の上に
移動し始めていました。別に膝の上に座られてもお父さんがアキラくんを叱ることはないので
すが、もじもじと少しずつ移動しているアキラくんのほっぺたには『緊張』という字がでっか
く張り付いているようです。
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