病床小アキラ 39
(39)
「ねぇ。おがたくんのおでこ、とってもあついよ」
目を閉じている緒方さんの耳に、一生懸命お父さんに訴えているアキラくんの舌足らずな声が
聞こえてきます。
「昨日のおまえのおでこもとても熱かったんだよ」
「ほんと〜?」
「どれ今日は――下がったみたいだな」
「えへへ」
どうやらアキラくんとお父さんは、昨日できなかった親子のふれあいを楽しんでいるようで
した。
きゃっきゃっとご機嫌なアキラくんの声が続きます。緒方さんはけだるそうに薄目を開け、
眼鏡を外して枕元に放りました。それを丁寧に畳みながら、お父さんはちらりと横目でアキラ
くんの様子を窺います。
緒方さんの顔の前に正座していたアキラくんは、モゾモゾとさりげなくお父さんの膝の上に
移動し始めていました。別に膝の上に座られてもお父さんがアキラくんを叱ることはないので
すが、もじもじと少しずつ移動しているアキラくんのほっぺたには『緊張』という字がでっか
く張り付いているようです。
|