病床小アキラ 40 - 43
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緒方さんはお布団の中で身体を仰向けにすると、ゆっくりと目を閉じました。
アキラくんはそんな緒方さんの様子を真剣な表情で見つめています。
「……アキラ」
お父さんが優しくアキラくんの名前を呼ぶと、アキラくんはおシリを半分お父さんの膝に
乗せた姿勢のまま動きを止め、黒目がちな大きな瞳でお父さんを見上げました。
いつもは『はいっ!』と元気よく右手でも挙げるところですが、今日はそういう気分では
ないようです。
そんなアキラくんを抱えて改めてきちんと膝の上に座らせると、お父さんは微笑みながら
そのさらさらツヤツヤのおかっぱを一撫でし、側に放っていたアキラくんのタイツやぷーちゃ
ん着ぐるみを指差しました。
「あれに着替えなさい。外に行くんだろう?」
「あのね…」
小さな声を聞きとめて、お父さんはアキラくんの小さな顔を覗き込みます。
「どうした?」
「……ううん」
アキラくんはお父さんの膝の上でしばらくモジモジしていましたが、やがておもむろに立
ち上がると洗濯物の中からタイツを見つけてきました。
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お父さんに手伝ってもらって不器用にタイツを履き、そして黄色の着ぐるみをすっぽり被っ
てフードまで被ったアキラくんは、親バカがそうさせるわけではありませんがとても可愛く、
お父さんは目を細めてフフと笑み零れてしまいます。
お父さんは音も立てず立ち上がると、落ちていた半纏を拾い、アキラくんの小さな肩にか
けました。
「さあ、天気がいいうちに外に出よう。……だが、寒くなったらすぐに中に入るんだ」
お父さんはキンと冷えている廊下に一足早く出て、アキラくんを手招きしました。
ですが、アキラくんは緒方さんのお布団の傍に立ったまま、やはり両足の親指を擦り合わ
せてモジモジとしています。
「――アキラ?」
その場から動こうとしないアキラくんを訝しんだお父さんがアキラくんの名前を呼ぶと、
アキラくんはそこにペタンと座り込んでしまいました。肩にかけたぷーちゃん半纏がパサリ
と音を立てて畳の上に広がります。
「外に行かないのか?」
お父さんの問いに、アキラくんはコクリと頷きました。
「だって、おがたくんがひとりになっちゃうもん」
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「…オレはいいから、行っておいで」
いつから聞いていたのか、眠っていなかったらしい緒方さんは薄く目を開けると、手を
伸ばしてアキラくんのフードの位置を少し直しました。目深に被っていたフードを後ろに
ずらすと、たちまちアキラくんの愛らしい顔があらわれてきます。
「アキラくん、外で遊びたいんだろ?」
「……ううん」
アキラくんはプルプルと首を振りました。あんまり一生懸命に首を振ったので、折角緒
方さんが直してくれたフードも外れてしまうほどの勢いです。
「緒方くんもああ言ってるんだから、アキラ」
アキラくんがどんなに外に出たかったかを知っているお父さんです。折角暖かく着込ん
だのにと、お父さんは少し残念に思いました。
しかし、アキラくんはお父さんの右の人差し指をちょこんと握って『あのね…』と小さ
く呟くのです。
「おとうさんしらないの?」
緒方さんのおでこにまたちょこんと手を当てて、アキラくんはお父さんを見上げました。
「あのね…。――ひとりぼっちはさびしいんだよ」
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アキラくんの舌足らずな、それでいて一生懸命紡ぎだす言葉に、お父さんと緒方さんはそれ
ぞれ目を見開きました。この小さな男の子は、いつの間にここまで成長したのだろうかと。
「だからボクはねぇ…おがたくんがげんきになるまで、そばにいるの」
いつかアキラくんがされたように、緒方さんのお布団をポンポンと叩きながらアキラくんは
続けます。
「……がんばってねんねしてね」
・・・
「オレなんか緊張してきちゃったよ〜」
ビニール袋をガシャガシャ言わせながら、芦原さんがアキラくんの後をついていきます。
「緒方さんの家って初めてだし。もし女の人とご対面しちゃったら、オレどんなリアクション
取ればいいかわかんないね。アキラは?」
話を振られてしまったアキラくんは、首を傾げながら胸に抱えた重箱を抱え直しました。
お重の中には、みんなで食べるはずだったおせち料理が少しずつ入っています。
「別に、普通にしていればいいんじゃないですか」
どういう返事を期待したのか、芦原さんはカクッと膝を折りました。
「…ってオマエね」
「それにしても──緒方さんって本当に身体弱いですね」
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