白と黒の宴 42


(42)
「昨日はすみませんでした、市河さん。心配かけてしまって。」
「ううん、いいのよ。それより、もう具合はいいの?アキラく…」
夕刻に碁会所に顔を出し、そう声を掛けて来たアキラに対し市河は応えようとして息を飲んだ。
アキラの後ろに寄り添うように緒方が立っていたからだ。
普段見なれたはずのそのツーショットにもかかわらず碁会所の中に居た常連客らにも一種
緊張感のような空気が漂った。
明日、二人が本因坊リーグでぶつかる事は誰でも知っている。
密かに勝つのは緒方か、はたまた若先生かと賭けをしている連中もいた。
そして門下生同士の直接対局だけに当人同士にもそれなりの意識が流れているのではと
周囲が勝手に憶測していたのだ。
だが普段通りに二人は言葉を交わし、それぞれの指導碁の席へと移動する。
「やはり我々とは精神力が違うんだろうねえ。」
常連の一人が感心したように緒方とアキラの姿を交互に見遣る。
市河もアキラの表情が明るく穏やかなのにホッとしたようだった。
「ここのところアキラ君が少し元気なかったから心配してたけど、取り越し苦労だったみたいね。」

予定が入っていた分の指導碁をそれぞれ終えると、緒方とアキラは揃って帰り支度をする。
緒方が車でアキラを家まで送るらしい。
その時まだ完全に復調していないためかアキラが少しよろめいて椅子にぶつかり、それを
緒方がしっかりと抱きとめた。



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