病床小アキラ 42 - 43


(42)
「…オレはいいから、行っておいで」
 いつから聞いていたのか、眠っていなかったらしい緒方さんは薄く目を開けると、手を
伸ばしてアキラくんのフードの位置を少し直しました。目深に被っていたフードを後ろに
ずらすと、たちまちアキラくんの愛らしい顔があらわれてきます。
「アキラくん、外で遊びたいんだろ?」
「……ううん」
 アキラくんはプルプルと首を振りました。あんまり一生懸命に首を振ったので、折角緒
方さんが直してくれたフードも外れてしまうほどの勢いです。
「緒方くんもああ言ってるんだから、アキラ」
 アキラくんがどんなに外に出たかったかを知っているお父さんです。折角暖かく着込ん
だのにと、お父さんは少し残念に思いました。
 しかし、アキラくんはお父さんの右の人差し指をちょこんと握って『あのね…』と小さ
く呟くのです。
「おとうさんしらないの?」
 緒方さんのおでこにまたちょこんと手を当てて、アキラくんはお父さんを見上げました。
「あのね…。――ひとりぼっちはさびしいんだよ」


(43)
 アキラくんの舌足らずな、それでいて一生懸命紡ぎだす言葉に、お父さんと緒方さんはそれ
ぞれ目を見開きました。この小さな男の子は、いつの間にここまで成長したのだろうかと。
「だからボクはねぇ…おがたくんがげんきになるまで、そばにいるの」
 いつかアキラくんがされたように、緒方さんのお布団をポンポンと叩きながらアキラくんは
続けます。
「……がんばってねんねしてね」

・・・

「オレなんか緊張してきちゃったよ〜」
 ビニール袋をガシャガシャ言わせながら、芦原さんがアキラくんの後をついていきます。
「緒方さんの家って初めてだし。もし女の人とご対面しちゃったら、オレどんなリアクション
取ればいいかわかんないね。アキラは?」
 話を振られてしまったアキラくんは、首を傾げながら胸に抱えた重箱を抱え直しました。
 お重の中には、みんなで食べるはずだったおせち料理が少しずつ入っています。
「別に、普通にしていればいいんじゃないですか」
 どういう返事を期待したのか、芦原さんはカクッと膝を折りました。
「…ってオマエね」
「それにしても──緒方さんって本当に身体弱いですね」



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