病床小アキラ 44
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お父さんの話では、昔からよく熱を出してたみたいですよ――そんな風に緒方さんの秘密を
暴露しながら、アキラくんはポケットから鍵を取り出すと慣れた手つきでドアの鍵穴に差し込
みました。アキラくんよりも何歳も年上の芦原さんは、アキラくんよりも旺盛な好奇心で目を
輝かせながらその様子を見守っています。
「その鍵は?」
「ああ、緒方さんは一人暮らしだから、もしものときのためにスペアキーをお父さんが預かっ
ているんです。もしかしたら緒方さん、今眠ってるかもしれないから」
音を立てないようにそうっと開けたドアをくぐりながら、アキラくんは『騒がないでくださ
いよ』と芦原さんに小さな声でお願いしました。
「わかってるって」
人差し指と親指で○を作って、芦原さんはニヤリと笑います。
「アキラこそ、緒方さんの彼女がいてもちゃんと挨拶するんだぞ」
「……わかってるってば」
何度か入ったことのあるマンションの広いリビングは暗くひっそりとしていて、人が生活し
ているような雰囲気ではありませんでした。しかし、アキラくんは重箱をテーブルの上に降ろ
すと、スタスタと緒方さんの寝室に向かいます。芦原さんも慌てて後を追いました。
「緒方さん…?」
そうっと寝室のドアを開けると、暗い部屋の真ん中にある大きなベッドの中央部分がこんも
りと盛り上がっているのがわかります。
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