病床小アキラ 45
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「なんだ、女っ気ナシか…。情けないなァ緒方さん」
自分をすっかり棚に上げた芦原さんは、アキラくんの肩越しに室内を見渡して心底ガッカリ
したような情けない声を上げました。
「何を馬鹿言ってるんですか、芦原さん」
ブラインドの隙間からは夕暮れの日差しが差し込んでいます。起こさないように祈りながら、
アキラくんは緒方さんのおでこにそっと右手を乗せました。
「どう、熱はありそう?」
緒方さんの部屋にやたらとある間接照明を明るくしたり暗くしたりしていた運転手兼荷物持
ちの芦原さんは、その遊びにも飽きた様子で、熱帯魚の水槽を見ながら今度は鼻歌でも歌いだ
しそうな勢いです。
「――多分。それにしても、すごい汗だな…」
緒方さんの容体と、いつでもマイペースな芦原さんの様子の両方にアキラくんは眉を顰める
と、枕元にあった乾いたタオルでおでこに浮かんでいた汗を拭いはじめました。タオルを軽く
押し当てるようにしているせいか、相変わらず緒方さんが目を覚ます気配はありません。
「濡れタオルかなんか持ってこようか?」
「そうですね、お願いします」
いつのまにか隣に立っていた芦原さんはにっこりと笑って片目を瞑ると、『ついでにちょっ
と探検してこよ』と大きな声で独り言を言いながら廊下に消えていきました。
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