白と黒の宴 46


(46)
やがて緒方が現われ正面に腰を下ろした。僅かに風が動いていつもの煙草の残り香がした。
緒方と対峙し感情が削げた視線を向けられた時、ドクンとアキラの身体の奥が脈打った。
あの時と同じように無表情で征服しようとする無言の圧力がそこにあった。
その視線に応えるようにアキラも睨み返す。
「…盤上では好きにさせません。」
周囲に聞こえぬ様小さく呟いたアキラになお緒方の表情は変わらなかった。

緒方の強さはアキラも良く知っている。
その上自分がどのように囲碁に向き合い習得していったかをつぶさに見られている相手である。
交互に石を置きながら相手の出方を伺う。
緒方はなかなか仕掛けて来なかった。アキラの常勝パターンを分かっていてあえてそちらへ
導くような石の運びだった。
アキラは最初の間は一石置く度に緒方の目を見返した。そうする事で自分の中の戦意に
火を点けるつもりだった。
「クールなようでいて顔に出る」緒方の中に多少は自分を怖れる気配が見出せないかと望んだ。
弟弟子ではなく、一人の人間として、手強いライバルとして見つめる目が欲しかった。

あの夜、体内に熱を吐き出され終えてしばらくの間身体を繋げたまま強く抱きしめられた時、
「…いつかはこうなると思っていた。それが怖かった…。」
意識が遠のく中で緒方がそう呟いていたのを覚えている。それは自分と身体を交える行為
のみを指すのではなく、今日の碁において真正面にぶつかる事を含んでいたように聞こえた。



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