白と黒の宴 48
(48)
だが対局が再開されて間もなくアキラは自分の予測が甘かった事を思い知らされた。
何の予兆もなく緒方の反撃は始まった。
針の穴のような隙間を突かれた一手から各局地で陥落したと思った緒方の石の砦が差す毎に
息を吹き返して行く。姿を変えて意味を持ってアキラの石を凌駕していく。
「くっ…!」
それでもまだアキラには逃げ切る自信があった。
良くて対等に並ぶまでと読み切っていた。
楽に勝てるなどと最初から考えていない。その為にも念には念を入れて右上と中央を最初に
固めて来た。そこはどうあっても崩されないはずだ。
だが前半の時と違って今度は緒方の目を見る事が出来なかった。
どうしようもなく怖かった。
じわじわと手足を拘束されていつ本体へ、そしてその奥深くへと攻め込まれるかもしれない。
格の違いというものを肌に感じないではいられなかった。
ヒカルと、ネットでsaiと戦った時もある種の格―品格を感じた。
それは勝つ事のみを最終目標としない、ある意味理想的な文字どおり高みを目指す碁だ。
打つ事によって自分と相手が供に何かを得ようとする生命的な熱さがあった。
だが今の碁は違う。
そこにあるのはただ相手の死を、二度と歯向かう気力をも奪い取ろうとする無慈悲な碁だ。
そこに息吹くものはない。無機質に相手の体熱を奪い合うものだった。
二冠という頂点を知る者の凄みだった。
固めた右上と中央が逆に足枷となってそれ以外への攻防が後手に回った。
|