病床小アキラ 48


(48)
 緒方さんにしては珍しい掠れ声です。長い間声を発していないからでしょう。アキラくんは
緒方さんの唇に人差し指を当てて『喋らなくてもいいですよ』と微笑みました。
「風邪をひいてしまったってお父さんから聞いて、芦原さんに連れてきてもらったんです」
 アキラくんの説明を受け、緒方さんは初めて芦原さんの存在に気づいたようです。ゆっくり
と顔を右から左へと動かして満面の笑みを浮かべた芦原さんを認めると、素早くアキラくんへ
と視線を戻しました。
「アキラくん」
「何なんですか〜その態度」
 緒方さんが被っているいかにも上質そうな羽毛布団の上に『の』の字を書きつつ、芦原さん
は頬を膨らませて拗ねてみせました。
「大体ね、タオルとか氷水とか、用意したのオレですよ」
 アキラくんは洗面器の中でタオルを濡らしつつ、緒方さんと芦原さんの様子を微笑んで見守
っています。この2人の兄弟弟子の掛け合いはアキラくんにとって新鮮で、それを目にするた
びにアキラくんは湧き上がる笑みを抑えることはできないのです。
「……そうなのか?」
 アキラくんは頷いて緒方さんのおでこに浮かんだ汗を拭うと、耳の後ろにタオルを当てました。
「そうですよ。冷たくて気持ちいいでしょう?」
 返事の代わりに深く息を吐き出すのは、心地良さの表れです。
 芦原さんが拗ねて書いていた『の』の字はもう消えていました。



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