病床小アキラ 49
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水槽の給餌口から餌を撒くと、様々な色の魚がひらひらと水面に上がってきます。
「お、食べてる食べてる」
餌を与えてもいいか訊ねたときに、『多くやりすぎるな』と緒方さんに厳命されていた芦原
さんですが、緒方さんがアキラくんに構われているのを確認すると、またいそいそと餌のケー
スを開けていました。
「……アキラくん、キミは帰った方がいい」
目を閉じたまま、緒方さんは穏やかに口を開きました。冷たいタオルで緒方さんを癒してい
るアキラくんの手の動きがぴくりと止まります。
「――え?」
「対局がずっと立て込んでいて、疲れが溜まっているだろう。風邪を移したら良くない」
緒方さんはゆっくりと目を開けると、とても大丈夫そうではない表情で『オレは大丈夫だか
ら』と続けました。アキラくんは一瞬込めていた肩の力をすっと抜きます。
「ボクなら大丈夫ですよ、まだ若いですし」
「………」
そんなつもりはなかったのでしょうが、アキラくんの何気ない一言にデリケートな緒方さん
は心底傷ついてしまいました。
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