病床小アキラ 50


(50)
「『キミは』ってさぁ、緒方さん、俺には移してもいいんですか?」
「馬鹿は風邪を引かん」
 どうも緒方さんは芦原さんをからかって遊んでいるようにも見えますが、もしかしたら本気
なのかもしれません。
 そんな緒方さんにいちいちムキになる芦原さんは、『魚に餌、もっとあげようかな…』と呟
いて唇を噛み締めました。
「緒方さんこそ、ちゃんと治してくれなくちゃ。ボクに負けたときに『風邪ひいていて』なん
て言い訳されても困りますから」
 アキラくんが氷水の中でタオルを揺らすたびにカラカラと真冬には寒すぎる音が聞こえてき
て、もう若くはないらしい緒方さんは背筋をブルリと震わせます。
「もしかして勝つ気でいるのか、アキラ? 緒方さんに」
「当たり前でしょう。たとえ勝てなくても、全力で勝つつもりですよ」
 朗らかに笑いながらタオルを絞り、アキラくんは緒方さんの額の上にそうっと置きました。
「緒方さんが具合が悪いと、きっとボクはそこに付け込んでしまうから――だから、早く良く
なってくださいね」



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