病床小アキラ 50 - 51
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「『キミは』ってさぁ、緒方さん、俺には移してもいいんですか?」
「馬鹿は風邪を引かん」
どうも緒方さんは芦原さんをからかって遊んでいるようにも見えますが、もしかしたら本気
なのかもしれません。
そんな緒方さんにいちいちムキになる芦原さんは、『魚に餌、もっとあげようかな…』と呟
いて唇を噛み締めました。
「緒方さんこそ、ちゃんと治してくれなくちゃ。ボクに負けたときに『風邪ひいていて』なん
て言い訳されても困りますから」
アキラくんが氷水の中でタオルを揺らすたびにカラカラと真冬には寒すぎる音が聞こえてき
て、もう若くはないらしい緒方さんは背筋をブルリと震わせます。
「もしかして勝つ気でいるのか、アキラ? 緒方さんに」
「当たり前でしょう。たとえ勝てなくても、全力で勝つつもりですよ」
朗らかに笑いながらタオルを絞り、アキラくんは緒方さんの額の上にそうっと置きました。
「緒方さんが具合が悪いと、きっとボクはそこに付け込んでしまうから――だから、早く良く
なってくださいね」
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芦原さんが横から手を出して緒方さんの瞼の上から軽く押さえると、緒方さんはまた深く息
を吐き出しました。
「気持ちいいよ。……アリガトウ」
アキラくんと芦原さんは顔を見合わせます。緒方さんは紳士ぶってはいますが基本的に天の
邪鬼で意地悪な人なので、あまり感謝の意を言葉にすることがないのです。
「緒方さんそれはね、あし……たっ」
芦原さんがしてくれたんですよ。そう言おうとしていたアキラくんが眉を顰めました。アキ
ラくんの手の甲を、芦原さんが抓ってきたのです。
「何をするんですか」
アキラくんが芦原さんを睨み付けると、芦原さんはニコニコ笑っています。
「よかったな、アキラ」
片目を閉じて笑う芦原さんに、アキラくんは芦原さんの思惑を知りました。多分芦原さんは、
緒方さんを気持ちよくさせたというだけで満足なのでしょう。多少申し訳なく思いながらも、
アキラくんも話を合わせることにしました。
「そうですね――、よかった」
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