病床小アキラ 52 - 53


(52)
 アキラくんたちが来る前に服用していた風邪薬が効いてきたのか、どうやら緒方さんは寝入っ
てしまったようです。芦原さんが固く絞ったタオルを緒方さんの額に乗せると、アキラくんと
芦原さんは緒方さんの部屋を後にしました。
「お弁当……緒方さん食べられるかな。ねえ芦原さん、どう思います?」
 キッチンと繋がっているリビングのテーブルの上で重箱の蓋を開けて、アキラくんは芦原さ
んに訊ねました。黒豆や数の子、焼き海老、だし巻き卵、栗きんとん、昆布巻きに筑前煮といっ
たものが漆塗りの重箱の中にぎっしりと詰め込まれています。
「どうだろうなあ。一人暮らしだし、見たところ女っ気は皆無だし、ここ最近の緒方さんの食
生活は悲惨だったとは思うんだけどねー」
 「女っ気は皆無」というところに非常に力を入れて語ると、芦原さんは小さめの鶏の唐揚げ
を一つ摘んで口に放り込みました。
「普通、熱があると食欲なくさないか? 味覚とかも変わると思うし」
 『アキラは違うの?』と聞き返しながら、芦原さんは今度はかまぼこに手を伸ばしています。
「ボクはあまり食事の量は変わらないんですよ、多少体調が悪くても。…芦原さん、おなかが
空いているならどうぞ」
 アキラくんは冷蔵庫の隣にある真っ白の食器棚から平たい皿を取り出すと、2番目の引き出
しを迷わず開けて深緑の箸を見つけました。


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 最近使われた様子がないそれらを洗っているアキラくんの背中を、芦原さんはニヤニヤ笑い
ながら見ています。
「アーキーラ」
「なんですか?」
 アキラくんはまた別の引き出しを開けて布巾を取り出すと、お皿を拭いて芦原さんに手渡し
ました。新しい気分で新年を迎えられるように年末に髪を切るのが塔矢家の習慣ですが、首を
傾げるアキラくんのおかっぱもいつもより短く整えられています。   
「よくここでご飯食べたりする?」
 赤飯のおにぎりと全ての種類のおかずを少しずつお皿に移して、芦原さんは早速大きな口を
開けておにぎりを頬張っています。
「どうしてですか」
「普通、そんなところに箸や布巾があるなんて思わないだろ」
 アキラくんはヤカンを火にかけて戻ってきました。芦原さんが食べている隣に座り、頬杖を
ついてその様子を眺めています。
「たまにですよ。お母さんたちがいないときに夕食をご馳走になったり」
「いいなー緒方さんの手作りのご飯。あの人器用そうだもんな。それよりさ、おにぎり、もう
1つ食べていい?」
 そう言いながらも、芦原さんは既に白いおにぎりを手にしていたのです。



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