病床小アキラ 54 - 55
(54)
「今日お見舞いに来たことをネタにして、今度ご馳走してもらいましょう」
「アキラからも頼んでくれる?」
「ハハ、いいですよ」
2人で顔を見合わせて笑っていると、やがてヤカンがシュンシュン音を立てはじめました。
「あっ、まだねんねしてなきゃダメッ!」
起き上がろうとすると、ミニサイズのアキラくんが必死の形相で抱き着いてきます。
「トイレだよ」
「ダメー」
しがみついてくるアキラくんの力はとても強く、押さえられているのは足なのに上半身にさ
え力が入りません。緒方さんは困ってしまいました。
「じゃあトイレまでアキラくんが連れてってくれる?」
「うん!」
張り切って返事をするアキラくんは小さいくせにとても上手に氷嚢を外し、緒方さんの身体
を支えて起き上がらせてもくれました。緒方さんの腰の高さよりも低いところから伸ばされて
いるアキラくんの手に導かれながらトイレに辿り着き、ぐるぐる回る大きなラフレシアの花の
中央部分に向かってズボンの前立てを開いたとき、緒方さんは身体を大きく震わせて目を覚ま
しました。
(55)
「ハハ、夢か」
緒方さんは照れてひとりで笑った後、ふらりと立ち上がって寝室を後にしました。アキラく
んたちのお陰か、随分楽になったようです。
キッチンへ続く廊下を歩いていると、てっきり帰ってしまったと思っていた2人の声が聞こ
えて来ます。緒方さんは思わず口元を綻ばせました。
――アキラからも頼んでくれる?
――ハハ、いいですよ
「何を頼むんだ……?」
リビングに入りながら独り言のように呟いた言葉を、2人は聞き逃したりしませんでした。
一斉に振り向くとエヘヘと笑って誤魔化します。
「あ、緒方さん、ごはん食べられますか? お母さんにお弁当作ってきてもらったんですけど。
緒方さん、年末から寝込んでたからおせちまだ食べてないでしょ」
アキラくんは立ち上がり、緒方さんに椅子をすすめました。
「いや、今はいいよ。それよりも、水を一杯もらえるかな?」
緒方さんは椅子にどかりと腰を下ろすと、アキラくんが手渡してくれたコップを呷りました。
喉が渇いていたのか、緒方さんはすぐにお代わりを頼みます。それを見越していたのか、アキ
ラくんはスポーツドリンクのペットボトルを手に持ったままでした。
「ねえ緒方さん。ごはんが駄目なら、りんごはどうです?」
緒方さんの差し出すコップにお代わりを注ぎながら、アキラくんはそんな提案をしました。
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