病床小アキラ 56
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「それと、プリンも一応買ってきてはいますけど…どちらにしますか?」
アキラくんは冷蔵庫のドアに手をかけ、くるりと振り向いて首を傾げました。
「いやぁ、風邪と聞いたらまずは桃缶ですよね緒方さん!」
リンゴにプリンと聞いて、早速芦原さんが疑義を唱えます。それは緒方さんの家に行く前
から2人の間で交わされていた議論でもありました。
「大体さ、緒方さんがプリンなんて食べるわけないじゃんかアキラ」
「…と芦原さんがさっきからずっと主張してるんですけれど、どちらがいいですか?」
真っ赤でつややかなリンゴと冷蔵庫から取り出したプリンを両手で抱えて、アキラくんは
にこにこ笑っています。アキラくんもご相伴に預かろうと思っているのでしょう。
余談ですが、外と室内の温度差がかなりあるのか、笑みを浮かべたアキラくんのほっぺた
はうっすらと赤くなっていて、芦原さんが買ってきた桃の缶詰のパッケージに描かれた桃の
色にそっくりです。齧ったら甘いかな? と芦原さんは考え、イカンイカンと首を振りました。
「緒方さんもボクも、昔から病気のときはりんごとプリンなんです」
プルプルと首を振る芦原さんを不思議そうな顔で眺めた後、そうですよね? と、アキラ
くんは緒方さんに同意を求めました。
アキラくんが小さいころから、『リンゴは身体にいいからたくさん食べなさい』とか『プ
リンは栄養がたくさん入っているから食べなきゃね』などと口癖のように言っていたのは
緒方さんでした。当の緒方さんは苦笑しながらも頷くほかありません。
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