白と黒の宴 56 - 57
(56)
「…一つだけ答えて欲しい」
頂上に向かう中でふいに問われ、アキラは浮遊していた視線をかろうじて緒方の方に戻す。
「オレに抱かれた事を…後悔しないか」
アキラは一瞬言葉に詰まったように緒方の目を見つめると首を横に振った。
「…後悔なんて…ボクは…、…ボクは…、…緒方さんが…」
その先の言葉を制するように緒方の手がアキラの顎をとらえた。
「…ならいいんだ…。」
二人とも全身に汗を纏っていた。ベッドを軽く軋ませる音はいつまでも部屋に響いた。
「おが…さ、も…う…、っ…」
アキラの下腹部部分はもう何度か放った自分の体液でベトベトになっていた。
その濡れそぼったアキラのペニスはなおも緒方の動く指の中で膨らみ雫を吐き続ける。
体内でもまだ緒方自身が動き続けていた。
意識を失うまでに自分が何度到達したのか覚えていない。
ただひたすら緒方によって甘く深い快楽を与えられ続けた。
だがその夜はもうアキラがどんなに望んでも緒方の放熱がアキラの中を焼く事はなかった。
朝、アキラが目を覚ますと隣に緒方の姿はなかった。両手の拘束は解かれて全身の汚れが
きれいにぬぐい取られていた。
もみくちゃになったはずのシャツも脱がされて代りに前もって用意してあったのか新品のシャツと
下着がベッド脇の床に置いてあり、スーツの上下もハンガーに掛けてあった。
(57)
全裸の体に毛布を巻き付けてよろよろと立ち上がり、リビングに向かう。
テーブルの上に以前と同じく部屋のスペアキーが置かれていた。
アキラはぼんやりとそのスペアキーを見つめていたが、寝室に戻ると服を着て、
その日はそこで緒方を待つ事無く部屋を出た。
ドアを出て、何かを封印するようにアキラは鍵をかけた。
緒方に、そうするように命じられたような気がした。
関西棋院から送られて来た北斗杯予選の対戦表を見ながら社はいつも通う碁会所に向かっていた。
「いよいよやなあ、社。せやけど気にいらんなあ。何で塔矢アキラだけそうも特別扱い
されるんや。親父が何か手をまわしたちゃうか。」
横から覗き込んだ院政時代の仲間が毒づく。社は鼻先で笑うと対戦表をポケットにしまった。
「…特別なんや。塔矢アキラは…。」
「ハア?」
怪訝そうな顔をする仲間を置いて社は碁会所の中へ入っていった。
入ってすぐにいつもと雰囲気が違う事を社は嗅ぎ取った。
「…?」
中に居た常連客の関心が店の奥の席に注がれていた。その先に見なれない客が居た。
白色系のスーツに身を包んだ背の高い男が1人、煙草の煙りを揺らしながら
盤上に石を並べていた。
|