白と黒の宴 57
(57)
全裸の体に毛布を巻き付けてよろよろと立ち上がり、リビングに向かう。
テーブルの上に以前と同じく部屋のスペアキーが置かれていた。
アキラはぼんやりとそのスペアキーを見つめていたが、寝室に戻ると服を着て、
その日はそこで緒方を待つ事無く部屋を出た。
ドアを出て、何かを封印するようにアキラは鍵をかけた。
緒方に、そうするように命じられたような気がした。
関西棋院から送られて来た北斗杯予選の対戦表を見ながら社はいつも通う碁会所に向かっていた。
「いよいよやなあ、社。せやけど気にいらんなあ。何で塔矢アキラだけそうも特別扱い
されるんや。親父が何か手をまわしたちゃうか。」
横から覗き込んだ院政時代の仲間が毒づく。社は鼻先で笑うと対戦表をポケットにしまった。
「…特別なんや。塔矢アキラは…。」
「ハア?」
怪訝そうな顔をする仲間を置いて社は碁会所の中へ入っていった。
入ってすぐにいつもと雰囲気が違う事を社は嗅ぎ取った。
「…?」
中に居た常連客の関心が店の奥の席に注がれていた。その先に見なれない客が居た。
白色系のスーツに身を包んだ背の高い男が1人、煙草の煙りを揺らしながら
盤上に石を並べていた。
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