病床小アキラ 6 - 7


(6)
 緒方さんは台所からリンゴと包丁を持ってくると、アキラくんの目の前でリンゴをぱかっと割って
うさぎりんごを6つ作りました。うさぎりんごをお皿に綺麗に並べていると、アキラくんが目を輝かせて
その様子を見つめています。
「起き上がれるかな?」
 緒方さんはアキラくんをひょいとあぐらをかいた自分の膝の上に抱っこしました。ぬくぬくのアキラ
くんが寒くないように、タオルケットでくるんであげます。
「寒くない?」
「うん」
 緒方さんの膝の上の感触が珍しいのか、アキラくんは何度か座り直して、やがてベストのポジションを
確保しました。緒方さんの胸に頭をもたせかけて、はふぅ、と深く息を吐きます。
「ハイ、どうぞ」
 お皿をアキラくんの前に持ってくると、アキラくんはうさぎりんごを一つ手に取りました。両手で持って
まじまじと観察しています。特に耳の付け根のあたりは念入りにチェックしているようです。
 緒方さんはその様子を笑いながら見守っています。
「――アキラくん、早く食べなきゃ色が変わっちゃうよ」
 促されて、アキラくんはようやくうさぎりんごを食べる気になったようです。
「うさぎちゃん、たべちゃってごめんね?」
 首を傾げながら心底申し分けなさそうに謝ると、アキラくんは小さなお口を大きく開けて、しゃくしゃくと
うさぎの形をしたりんごを食べてしまいました。


(7)
 しゃくしゃくしゃく、しゃくしゃくしゃくとアキラくんがりんごを頬張る音が規則的に聞こえてきます。
 アキラくんを抱っこしている緒方さんからは揺れる真っ黒のおかっぱしか見えませんが、アキラくんが
一生懸命りんごを食べている様子が手に取るようにわかりました。
 アキラくんはとにかく何に対しても一生懸命なのです。
「ねぇねぇ、おがたくんはたべないの〜?」
 にょっきりと目の前にりんごが差し出されて、緒方さんは何度か瞬きました。アキラくんが大きな
目をくるくるさせながら緒方さんのくちびるにりんごをくっつけてきたのです。
「おいしいよ?」
「…食べさせてくれるの?」
 思わず微笑むと、アキラくんはこっくりと頷きました。
「ハイ。あ〜ん」
 ハイトーンの声で促されて、緒方さんは照れくさい思いで口を開けました。アキラくんがすかさず突っ
込んできたりんごをかじると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がります。
「おいしいでしょー」
 緒方さんがむいてくれたりんごなのに、アキラくんはまるで自分で育てたりんごが美味しかったのだと
言わんばかりに誇らしげに笑っています。
 ぷくぷくのほっぺたは相変わらず真っ赤ですが、アキラくんは随分元気になったようでした。



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