白と黒の宴 61
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社は改めて興味深く緒方を見返した。そして息を飲んだ。
感情の読めない無機質な、だが鋭い光りを宿した緒方の瞳があり、その瞳を通じて自分を
静かに睨み据えるアキラの視線を感じたのだ。
(…塔矢アキラに試されとるワケか…)
社もまた、緒方を睨み返した。
黒は社が持った。だが、慎重を期して考えに考え、右上スミ小目に置く。
普段の社を知る者達からどよめく声が漏れた。
比較的短期間で成長した社はあまり長考せず感覚で走るタイプだった。定石に捕われず
思いきった手を打つ。だが当然その下には複雑な読みと計算が含まれている。
胸を借りるというのではなく本気で勝ちに行くつもりなのだろう、と誰もが思った。
それに対する緒方の応手は意外なものとなった。
ノゾキにしてもヒラキにしても社を上回る先手で仕掛けられて来た。
常連客らはそれを見て、「まるで清春の次の手を予測しとるようや」「いや、っていうよりか
まるで清春の打ち方や…」「けしからん。大人が子供のマネをするとは…」と驚きを口々に
していたが、それ以上に社は動揺していた。
初段の社の棋譜などさほど記録としては残っていないはずである。
(…まさか)
動揺を隠し、社は出来るだけ冷静に対局を進めようとする。
(…塔矢アキラとのあの一局を見ただけでオレの打ち筋を見切ったいうんか?)
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