白と黒の宴 62


(62)
社の手が止まる。口元に手をあてて考え込む。相手が相手なのだから当然と見る向きもあったが
この囲碁サロンではあまり見る事のなかった社の様子に常連客らも声もなく見守る。
片手を口元に置いたまま社がゆっくりと石を運びある箇所へ置く。
緒方もまた、2本目の煙草に火を点け一拍置くように眼鏡に手をやり、次の一手に時間をかける。
一本の木を挟んで睨み合う虎と獅子のように緊張感の中でのやり取りが続く。
先刻の社の一手で流れが変わったが緒方の読みを警戒し、性急な打ち込みを避け、局面は複雑化した。
常連客の何人かは戦況が理解出来ず脱落していく中、年長の客は展開よりも社の様子に見入っていた。
手をあてた隙間で社の唇は笑みを浮かべていた。
「…清春があんな楽しそうに打つのを見るのは久々や…」
年長の客は腕組みをし、社と緒方の顔を見比べる。緒方は相変わらず感情を表に出さない。
「フン、やっぱどうもイケ好かんわ…」

緒方は社の見方とはまた別の意図を持ち始めていた。
社という少年の実力を計ろうとしていたのは当然前提としていたが、彼を取り巻く環境と
彼自身に興味を持ち始めていた。
常連客らに見守られ支持されているところと、そういう碁会所でチヤホヤされてきた
子供にありがちな片寄ったプライドが無いところがアキラと似ている。
見切られていると判断したらあっさり自分のパターンを捨てる。その上で更に的確な手をよく考えて打って来る。



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