白と黒の宴 63
(63)
アキラが碁会所で社と打った後で、社を見送りに一緒に出て行ったという話を市河から聞いた時は
にわかに緒方としては信じられなかった。
社のどこかにアキラが惹かれた部分があるとすればそれを確かめないわけにはいかなかった。
「進藤だけかと思っていたが…」
ボソリと緒方が呟き、「?」と社が顔を上げる。
その時点で僅差ではあったが緒方の優勢は変わりそうにはなかった。
「ここまでやな…」
社が石を離し、頭を下げた。
「ありません。」
ハッキリとした声だった。負けたとしても食らい付ききったという自負があるのだろう。
緒方は煙草を灰皿に押し付ける。
「…オレが出来る事は塔矢アキラにも出来る。この次は彼に対し同じようなやり方は
二度と通じん。ましてや…」
石を戻しながら緒方は社を見据えた。
「弱味につけこむようなマネは止めてもらおう。」
(…こいつ…)
囲碁の事だけを指しているのではない。緒方とアキラの関係が特別であると社は確信した。
そして緒方が席を立って帰ろうとした時、我慢出来ないといった様子で
数人の常連客が緒方を囲んだ。
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