白と黒の宴 64 - 65
(64)
「聞き捨てならんなあ、そらあ。清春はそんなマネせんわ。ワケの分らん言い掛かりは止めといてもらおか。」
「せや、うちの清春を親の七光りのぼんぼんと一緒にせんといてくれ。」
聞き捨てならないと言ったように睨み返したのは緒方の方だった。
その眼光の鋭さにその場に居た者たちが怯んだ。
「『うちの』という言い方、もう止めてくれんか、恥ずかしい。」
社が客らと緒方の間に割って入り、緒方に頭を下げた。
「申し訳ないです、緒方先生。…途中まで送ります。」
後をついて来かねない客らにひと睨みして、社は緒方とそこを出た。
出て間もなく裏道に入り、歩きながら社は唐突に緒方に問いた。
「恋人なんですか?塔矢アキラは緒方先生の…」
緒方が社を睨む。だがそう問われることは予想していたようだった。
「…違う。」
その答えは社にとって意外だった。社がアキラを抱いた時、アキラがそういう行為が
初めてではないと感じとったし本人も否定しなかったからだ。
だがそれは今は口にしてはいけないと思った。
「そやったら…関係ないと思いませんか。…オレが塔矢アキラに近付こうがどうしようが。」
緒方の足が止まった。だが社は臆せず続けた。
「オレは本気です。塔矢アキラも―あいつもまんざらじゃなかった。」
緒方の腕が伸びて社の胸ぐらを掴む。すぐさま社もその緒方の手首を掴み、睨み合いとなった。
(65)
裏通りとは言え人陰が無い訳ではなかったが、さして物珍しい光景でもないといった風に
睨み合う二人に特に注意を向ける者はなかった。
片や白スーツにサングラス、片や逆立てた茶髪に黒のセーターと黒のジーンズの上下に身を包んだ
鋭い目付きの若者となればかかわり合いになりたくないと思うのが心情だろう。
若干上背で勝る緒方を見上げる形で社は挑発的な笑みを浮かべていた。
「オレを受け入れるか拒絶するかは塔矢本人が決める事やと思いませんか…?」
そのまま暫く二人は動かなかった。そして緒方が口を開いた。
「君は塔矢アキラという人間が分かっていない。…抱いただけでは彼を手に入れる事は出来ない。」
その言葉に「ハハッ」と社が可笑しそうに笑い出す。
「それくらい判っとる。囲碁でもあいつに認められんとダメやゆう事やろ。とりあえず北斗杯の
選手の座を勝ち取って塔矢のチームメイトになってみせる。」
「分かっていないようだな。…アキラにとって北斗杯なぞ何の意味も持っていない。」
「塔矢が望めば四冠でも五冠にでもなったるわ。」
「その前に『障壁』が超えられるかどうかだ。」
「『障壁』…?」
怪訝そうな表情を見せる社から緒方は手を離し、社も緒方の手首を離した。
「北斗杯の選抜戦でわかる。」
言葉の意味を思案する社の前から緒方は立ち去った。
社はジーンズのポケットから選抜戦の対戦表を取り出す。自分の他七名の名が並んでいる。
「…『障壁』…?この中に…?」
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