白と黒の宴 67


(67)
「塔矢先生?」
「あ…、は、ハイ、すみません。」
呼び掛けられ、休憩の時間が過ぎている事に気がついて慌てて席に移動する。
「何だ、子供じゃないか。こんなんでちゃんと碁を教えて貰えるのか?」
かつてはゴルフ場で着ていたであろうブランドのロゴの入ったポロシャツの50代後半位の
男性が苛立たしげにアキラを一瞥する。
同じく指導碁を受ける同じグループのいかにもその仲間といった者らも
「やはりちゃんと紹介してもらった碁会所に行った方が良かったかな」と口々に不満を漏らす。
定年前にリストラ同然に退職し、家に居る時間を持て余してこの年代から囲碁を習い始める
中間管理職の成れの果てのような輩が、最近増えたと市河がこぼしていた。
彼等の多くは人との接っし方を知らないのだと言う。横柄で自己顕示欲が強く
過去の肩書きに縋って生きている。
当然囲碁界に関する話題に興味はない。ただ自分がそこそこ碁が打てるようになればそれで良いのだ。
それでも今のアキラにはそういう相手の方が気が楽だった。
「御期待にそえるようがんばります。黒石を九つ、その交点に印があるところに置いて下さい。」
アキラが丁寧に頭を下げ、優しく微笑んで碁盤の上に手を示すと男性らは顔を見合わし、
多少は自分達の言動を恥じたのか、同じように頭を下げて素直に石を並べ出した。
彼等を笑う事はアキラには出来なかった。自分が生きている世界はまだまだあまりに狭い。
相手の意欲を削がぬ様、楽しみを見出せる様導き石を置く。そうして自分を戒め調律する。
まだリーグ戦は終わっていないのだ。



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