病床小アキラ 7
(7)
しゃくしゃくしゃく、しゃくしゃくしゃくとアキラくんがりんごを頬張る音が規則的に聞こえてきます。
アキラくんを抱っこしている緒方さんからは揺れる真っ黒のおかっぱしか見えませんが、アキラくんが
一生懸命りんごを食べている様子が手に取るようにわかりました。
アキラくんはとにかく何に対しても一生懸命なのです。
「ねぇねぇ、おがたくんはたべないの〜?」
にょっきりと目の前にりんごが差し出されて、緒方さんは何度か瞬きました。アキラくんが大きな
目をくるくるさせながら緒方さんのくちびるにりんごをくっつけてきたのです。
「おいしいよ?」
「…食べさせてくれるの?」
思わず微笑むと、アキラくんはこっくりと頷きました。
「ハイ。あ〜ん」
ハイトーンの声で促されて、緒方さんは照れくさい思いで口を開けました。アキラくんがすかさず突っ
込んできたりんごをかじると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がります。
「おいしいでしょー」
緒方さんがむいてくれたりんごなのに、アキラくんはまるで自分で育てたりんごが美味しかったのだと
言わんばかりに誇らしげに笑っています。
ぷくぷくのほっぺたは相変わらず真っ赤ですが、アキラくんは随分元気になったようでした。
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