白と黒の宴 74
(74)
「…進藤…」
「緒方先生…!、ご、ごぶさたしてます。」
門のところに立つ人物が緒方と判るとヒカルは屈託無く笑顔で挨拶する。塔矢は塔矢でこれから
緒方と検討会なり対局なりする約束があったのだろう、とその位にしか思っていないようだった。
「じゃあな、塔矢。」
自分がここに来ていた事も当然後ろ暗く感じるところなく、ヒカルは傍に立つアキラに明るく
手を振ってその場を離れた。アキラは無言のまま緒方を見つめていた。
ヒカルが数メートルほど歩いて何気なく後ろを振り返るとアキラと緒方の姿はもう家の中に消えていた。
「…?」
何となく、二人の間に緊張感のようなものをヒカルは感じたが、
「そっか、同門対決の後だもんな…」
と呟くと夜道を駅へと急いだ。
居間の食卓の上には空になった皿やざる、二組の箸とつゆの小鉢が残されたままになっていた。
アキラはそれらのものを盆に乗せて流し台に運び、代りにふきんを持って来て食卓の上を拭く。
食事の用意の際に部屋着のチノパンと薄手のセーターに着替えていた。
「ボクがまだ小学校の低学年の頃は緒方さんもよく一緒にここで食事をしていましたよね…。
進藤が、お腹減ったって言うから、…でも何もなくて、うどんをゆでてあげたんです。
…ボクがネギを刻んで、しょうがを摩って…」
緒方に問われた訳でもない話をアキラは独り事のように説明しながら
ヒカルと過ごした時間の痕跡を片付けていった。
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