白と黒の宴 76 - 77
(76)
「お、…緒方さ…ん!」
「片付けを続ければいい。」
閉じようとする脚の間に緒方の膝が入れられ、ゆっくりと緒方の乾いた指先がアキラの体内にねじ込まれて来る。
「やめて…くださ…」
流し台の中に両手を着くようにしてアキラは肩を震わせ、緒方の所業に抵抗しようとした。
「いいから続けるんだ。」
緒方の表情は見えなかったが、声からあの時の感情のない緒方の冷たい視線をアキラは感じた。
あの目に逆らう事は出来ない。アキラは唇を噛み締めるとやむなく洗い物を続けようとした。
だが緒方の指は強引に入るところまで入ると何かを探るように内壁を撫で動き始めた。そうなるともう
アキラは正常な感覚を保てなくなった。
緒方はもう片方の手をアキラのセーターの中にくぐらせて胸の突起を弄り始めた。
「は…あっ…!」
手から皿が落ち、アキラの口から荒い呼気が漏れはじめる。
中に入っていた指が引き抜かれ、今度は2本となって再び中に押し入りばらばらの方向に
動く。胸の突起はすぐに固く尖り立って痛みを感じる程に指でこねられ押しつぶされる。
「いや……っ!!」
アキラが叫ぶと同時に緒方がアキラの体を離し、膝が崩れるようにアキラはその場にしゃがみ込んだ。
「…なるほど…」
ハアハアと肩を震わせ蹲るアキラを暫くの間緒方は冷ややかに見下ろしていが、
アキラの両脇に手を入れて強引に立ち上がらせると自分の方を向かせた。
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ほとんどアキラは下半身に力が入らず緒方に体重を預けたかたちだった。
予期しなかった形で与えられた刺激にうっすらと頬を紅潮させ涙ぐんでいた。
緒方はアキラの額と鼻先にかけて優しくキスをする。が、唇には触れて来なかった。
「…今夜はこれで帰るとするよ。」
手を離すと再度その場に座り込んだアキラをそのままに残して緒方は出て行った。
アキラには緒方の意図が分かっていた。
確かめたのだ。自分がヒカルとSEXをしていないかどうか。
「アハハ…ハハッ…」
アキラの口から何故か笑い声が漏れた。進藤と何もなかった事がかえって
緒方にはさぞ辛かっただろうな、そう思ったら可笑しくなったのだ。
「そうだよ、緒方さん。…進藤は特別なんだよ。ボクにとって…。」
自分にとって一番大事なものはヒカルであり、ヒカルと碁の高みを目指す事。
それ以外はない。他には何もいらない。
―緒方が、社が、自分の肉体をどう支配そようがその事は揺るがせない。
煙草をくわえながらエンジン音を響かせ荒っぽい運転で夜の都市を駆け抜ける。
「あんなつもりはなかった…」
小さなつぶやきはカーステレオから流れる大音量のBGMにかき消される。
助手席のシートにはあの家に来る途中で買った二人前の寿司折りが置かれていた。
(終)
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