白と黒の宴 77


(77)
ほとんどアキラは下半身に力が入らず緒方に体重を預けたかたちだった。
予期しなかった形で与えられた刺激にうっすらと頬を紅潮させ涙ぐんでいた。
緒方はアキラの額と鼻先にかけて優しくキスをする。が、唇には触れて来なかった。
「…今夜はこれで帰るとするよ。」
手を離すと再度その場に座り込んだアキラをそのままに残して緒方は出て行った。
アキラには緒方の意図が分かっていた。
確かめたのだ。自分がヒカルとSEXをしていないかどうか。
「アハハ…ハハッ…」
アキラの口から何故か笑い声が漏れた。進藤と何もなかった事がかえって
緒方にはさぞ辛かっただろうな、そう思ったら可笑しくなったのだ。
「そうだよ、緒方さん。…進藤は特別なんだよ。ボクにとって…。」
自分にとって一番大事なものはヒカルであり、ヒカルと碁の高みを目指す事。
それ以外はない。他には何もいらない。
―緒方が、社が、自分の肉体をどう支配そようがその事は揺るがせない。


煙草をくわえながらエンジン音を響かせ荒っぽい運転で夜の都市を駆け抜ける。
「あんなつもりはなかった…」
小さなつぶやきはカーステレオから流れる大音量のBGMにかき消される。
助手席のシートにはあの家に来る途中で買った二人前の寿司折りが置かれていた。


(終)



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