白と黒の宴 8
(8)
あの事があった次の日、アキラは熱っぽくあちこち痛む体で午前中に事務所に行った。
「行為」の痕跡を消すためだ。
和室の畳の上でようやく社が体を起こして自分の体内から抜き出た後、彼は自分の
スポーツバッグからタオルを取り出して自分とアキラの体の汚れを拭き取った。
「あかん、時間ないわ。」
それ以外の後始末もそこそこに部屋を出たのだ。
体の内と外に生々しく感触が残っているのにその場所に戻る事はアキラにとって辛かった。
研究会の時と違ってゴムを着けてもらえなかった為に夜中に何度もトイレに通い、殆ど眠れなかった。
母親に気付かれないよう、二つあるトイレの客用の家の奥にある方を使ったが、
それでも一度母親が起きて来て心配そうに声を掛けられてしまった。
事務所に入り和室の戸を開けた時、一瞬そこに体を繋げ合い喘ぐ社と自分の姿があるように感じた。
自分達が放ったものの臭いが漂っているようでに吐き気を覚えた。
窓を開けて換気をし、畳の上が汚れていないか確認した。本棚の中で崩れていた本を揃えた。
大丈夫だと思う。あの場所であった事は誰にも気付かれないはずだ。たとえ勘の鋭い緒方でも。
前を行く緒方にはそんなアキラの表情は分からない。静かな奥まった道に入り、その建物に入る。
鍵は緒方も持っていた。事務所は緒方にも解放される事になっている。緒方は身内同然と言っていいだろう。
行洋が単独で中国に行く間何かあった時は母親も緒方に相談する事が多かった。
それだけに、今回の事も緒方には絶対に知られたくないとアキラは思っていた。
ある意味、両親やヒカルに知られるより辛いかもしれない。
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