病床小アキラ 9
(9)
よく喋っていたアキラくんの口数が少なくなってきました。緒方さんがアキラくんの顔を覗き込んで
みると、アキラくんはゆっくりと瞼を下ろしているところでした。
どうやらようやく眠くなったようです。
緒方さんがそのままアキラくんをお布団の中に寝かせてあげようとすると、閉じられていた瞼がぱちっと
開いてしまいました。大きな黒目がちの瞳にぼんやりと見つめられ、緒方さんはまた座り直しました。
「眠くなっちゃった?」
「ううん…」
緒方さんの胸にほっぺたをスリスリして、アキラくんは何度も瞬きします。そのたびに密集した長い
まつげが強調されて、緒方さんはアキラくんのまつげにマッチ棒を乗せてみたい衝動に駆られました。
ですが、アキラくんを抱っこしたまま家捜しするわけにもいきません。緒方さんはアキラくんの背中を
ポンポンしました。
「寝るんだったらお布団に入ろうか」
「……や」
アキラくんは緒方さんのシャツを掴む手にきゅっと力を込めます。
「まだねんねしないもん」
今まさに寝ていたじゃないかと突っ込みたい気持ちがムラムラと湧いてきましたが、緒方さんは
ただ苦笑して、壁の方に移動して座り直しました。アキラくんがやがて全ての体重をあずけてきても
平気なようにです。
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