裏失楽園 11 - 12
(11)
「………!」
温かいものがそこに触れた。細くて縦横無尽にうねるそれは、ボクの体内に半ば強引に侵入した。
今まで知り得なかった感触に慌てて背後を振り向くと、床に膝をついた緒方さんの広い肩が見える。
緒方さんは――あろうことか、ボクの最奥に舌を伸ばしていたのだ。
「…緒方さん……! やめ……っ」
信じられない。ボクは今までその施しだけは受けたことがなかった。いつもとろとろに溶かされて
彼を受け容れるけれど、彼はいつもその長い指に指サックをつけて準備をすることが多かったのだ。
大きな声を出したからか、ぐ、とそこに深い侵入を許してしまい、ボクは顔を両手で覆った。
傾いだ上半身が壁に支えられる。この壁がなかったら、ボクはとうに床に頬をつけ、腰だけを高く
掲げたイヤラシイ格好をとらされていただろう。
視界が遮られると、緒方さんの舌の温かさとその動きが余計リアルに感じられる。聴覚が研ぎ澄ま
されるのか、彼が潤いを与えるその音までが聞こえるような気がした。自分が自分でなくなりそうな
感覚が全身を支配しそうになり、ボクは顔から両手を引き離した。
「やめてくださ、」
緒方さんから逃れようと、ボクは身体を捩った。しかし、緒方さんの腕はがっちりとボクを拘束し、
離してくれない。
「――キミがいい子だから、ご褒美だよ」
眼鏡が邪魔になったのか、緒方さんは言いながら片手で眼鏡を外した。それを少し離れた床に置いて、
彼は前髪を掻き上げてボクを見上げる。ガラスと長めの前髪に遮られない、彼の美しい瞳が露になった。
「ここだけはオレのもの、なんだろう?」
色素の薄い切れ長の目にまっすぐ見つめられ、ボクは抵抗を止めた。
(12)
緒方さんがボクの秘所を舐めている。…その事実はボクをひどく興奮させた。ボクのそこが再び
力を取り戻しはじめると、あれほど触れることを避けていた彼の指がそこに纏わりつき、草むらを
かき分ける。微妙なリズムがボクを支配し始めた。
「んっ……あ…」
だらしなく開いた口からひっきりなしに声が漏れるのを、ボクは止めることができない。止めよ
うとも思わなかった。緒方さんはこのような場面で、ボクが声を抑えるのを好まないのだ。
「あ―――あ、ぅ…」
緒方さんはボクを支配する右手を動かしながら立ち上がる。空いた手で胸の突起をつままれ、鋭い
痛みとそれだけではない刺激にボクは背中を反らせた。
「……もういいだろう」
カチャリと、金属が触れ合う音がする。ついでジッパーが下ろされる音が聞こえ、背中に温かい
ものが触れた。ボクの身体に擦り付けるように動かす。――生身の、彼だ。
ボクは彼と向き合いたいと思った。緒方さんに触れ、散々焦らされたその砲身を舌で感じたかったが、
彼はボクの中心を握る右手を離そうとせず、またボクはそんな緒方さんに抗うことができないでいる。
いつでも、どんなときでも、緒方さんはボクの支配者だった。
「――もう少し足を開いて、力を抜きなさい」
ボクに命じる緒方さんの低い声に、ボクは目を閉じる。彼の手がボクの前から離れ、ボクの双丘を
両手で押し開く感触がし、やがてその入り口に大きな圧力を感じた。
両手で彼に縋りたかったが、今日の緒方さんはきっとそれを許してはくれない。
下半身の熱さとは全くちがうあの醒めた目でボクを観察し、そして訊ねるのだろう。『進藤もキミに
縋ったの?』と。
その部分に絞り出される温かいオイルを感じながら、ならばとボクは思う。
彼がしたいままに、――彼を全て受け容れよう。
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