裏失楽園 76 - 80


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 我慢出来なくて口を開けたが、待ちわびた彼の舌は入って来ずにやがて離れていった。
「カワイソウに、もうすぐで達けたのにオマエが入ってくるから」
「う…」
 グイ、とボクのシャフトを大きな手で握り込まれた。もっと優しく触れて欲しい。ボクは彼
の手のひらに擦り付けたくて腰をくねらせた。
 彼の両手は何時の間にかボクの脚を広げる役目を放棄していることを、ボクは唐突に気づい
た。緒方さんに抱え込まれていなくても、ボクは局部をすべて曝け出していたのだ。
「アキラくん、進藤にオネダリしてみたらどうだ? 彼にはキミの後ろはオレのものだと言っ
たが、それ以外を禁止した覚えはないぜ」
 彼の行動には呆れてしまう。緒方さんはそんなことを進藤に言っていたのか――と。
 緒方さんは、まさしくボクの身体の隅々をボク以上に支配しているのだ。
「しんど……」
 緒方さんが動き、ボクが動くたびにブレる視界の中央で、進藤がゆらりと動く。
 ボクより一足先に18歳になった進藤は、出会った頃のような柔らかな印象がなくなった。
 ボクが見下ろすほどに小さかった身長も、いつの間にかボクと同じくらいになっていた。
 その進藤に向かってボクはさらに膝を開いた。
「――ボクに、触って」


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 触って。ボクに触って。
 やがて神の一手を紡ぎだすかもしれない、――それともボクにもたらすかもしれない。
 そんな無限大の可能性を孕んだその指で。
「…触って――…」
 ボクの希みを何度か繰り返しているうちに、進藤はゆらりゆらりと揺れながらボクの前に近
づいて来た。灯りを抑えた緒方さんの暗い部屋では、彼の明るい前髪の色も落ち着いて見える。
「――って……」
 光の加減で進藤の顔がよく見えない。そのことが残念な気がしたし、またその逆でもあった。
進藤がどういう表情でボクを見ているのか――発情したボクを憐れんでいたり、呆れて見てい
るだけだとしたら、ボクは酷く惨めな気分になるだろう。
「………」
 ギシとベッドを軋ませて、一歩一歩確実に近づいてきていた進藤はベッドの上に膝で乗り上
げてきた。この広い寝室にいくつも置かれたライトに照らされて、進藤の容貌が露になる。
 ボクと対峙した進藤は……まるで無表情だった。
 細い顎も、無駄な肉を削ぎ落としたような頬も、そして大きな瞳も、何一つボクに訴えかけ
てはくれない。いつもは言葉以上に雄弁なそれらを、ボクはぼやける視界に捉えた。
「しん、ろ……」
 ゆっくりと、ボクは彼の名を呼んだ。進藤はスッと顔を寄せ、ボクの顔を凝視する。
 進藤、キミはボクのこんな姿を見て、それでもボクをライバルと認めてくれるだろうか?


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 進藤の視線がボクの顔からゆっくりと下がってゆく。
 ライバルと思ってくれなくてもいい。この熱を沈めてくれさえすれば。――今、ボクはそん
な危うい本能にあっさりと敗北し、緒方さんに貫かれるまま彼の前に身を投げ出す。
 脚を閉じようとは思わなかった。ボクはむしろどれだけ飢えているのかを見せつけるべく、
彼に対して一層無防備になった。
 両脚を広げると、後ろで受け容れている緒方さんのカタチがよく判る。
 その熱さも、固さまでも。
「ああ――イイね」
 こんな風にしてみたかった。緒方さんはボクの内部に深く注挿を繰り返しながら呟く。
「進藤に触られたらキミはとても興奮するんだろう? 早く見せてくれ」
 そしてそんなボクを見て、緒方さんは興奮するのだろう。緒方さんと一つになっているか
らか、彼の気持ちがボクには手に取るように判ってしまう。
「さぞ綺麗だろうね…」
 ギシ、と再びベッドが悲鳴をあげた。ボクの両方の膝をそれぞれの手で掴んで、進藤は
ゆっくりと腰を屈める。
 …ああ、この近さなら暗くても彼の髪の明るいのがよく判る。
 ボクは彼の柔らかな髪に両手でそっと触れた。


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 ボクたちは何となく始まってしまった感はあったけれども、どちらかの一方的な欲望に
よって始まったわけではなかった。だからというわけではないのかもしれないが、ボクが
するのと同じように、緒方さんもボクに口でしてくれることがある。
 緒方さんの綺麗な指に身体を少し触られるだけでボクは目茶苦茶に感じて、いつも早い
時期に爆ぜてしまいそうになるから、彼は本格的にボクと愉しむ前に一度ボクを達かせて
くれるのだ。
 片手で後ろを弄りながら空いた手で触ることもあるし、ソファにボクを浅く座らせて、
そして苦さの残る口で愛撫を加えることもある――丁度今のように。
 ボクは彼の髪を掻き回すのが好きで、緒方さんはピチャピチャと音を立ててボクを舐め
ては、セックスの時にしか見せてくれない美しい裸の瞳でいつもボクを見上げていた。
 進藤は……どんな顔を見せてくれるんだろう。
 ボクは引き寄せる進藤の小さな頭の形や案外に柔らかい髪を指先で確かめながら、自分
の開いた両足の間に導く。
「きて――進藤」
 ボクの意思で開いた脚は、両膝を進藤が、そして緒方さんが下から太股を持ち上げるよ
うにして支えていて、外気に無防備に晒された状態だった。ドロドロした色んなもので濡
れていた部分も急速に乾いていくようで、ボクは冷たく冷えきったそこに新たな湿気と熱
を求めた。


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 進藤の顔はどんどん近づいて来る。
 ボクの肩越しに緒方さんも見ているのだろう。相変わらずゆらゆらとボクの内部を刺激
しつづけているけれど、腰を打ちつける速度が次第に落ち着いてきた。
 あと数センチで進藤がボクを癒してくれる。早く欲しくて、ボクは彼の頭を一層強く引
いた。ピンク色の舌を覗かせて、彼は自分の唇をするりと舐めた。
 ――もうすぐあの舌で、あの唇でボクを。
 進藤が目を伏せると、意外にもとても長い睫毛が強調される。
 まだ何か躊躇いがあるのか、進藤は首をグッと突っ張らせてぎゅっと目を閉じた。
「オ…レ」
「ん……なに……?」
 ボクはシーツの上についた両手に力を入れて腰を浮かせると、彼の顔の側に精一杯近づ
ける。一瞬緒方さんが出て行きそうになって焦ったけれど、彼はすかさず腰を進めてボク
の中にまた納まった。ずっと彼が中にいるため、後ろの感覚はもう痺れたように麻痺して
いて、内臓にかかる圧迫感と拓かれる快感だけがリアルに感じられる。
 痛みはあまり感じられず、目一杯広げられた入り口の痛みよりも、脚を大きく開いた股
関節の痛みの方がずっと大きかった。
「オレは……」 
 進藤が言葉を吐く度に温かな吐息が剥き出しのボクにかかる。それだけでボクの身体は
ピクリと震え、その動揺は緒方さんに伝わった。



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