裏失楽園 66 - 70


(66)
 緒方さんの逞しいシャフトは、そのままボクを支える軸そのものになった。
 ボクは緒方さんに操られる人形のようにガクガク震え、そうしながらもシーツをたぐり
寄せて口に銜える。そうしなければ高い声を上げてしまいそうだった。
 緒方さんは次第に激しく腰を打ち付けてくるが何も言わない。それは同じすぐ近くに進
藤がいるからというわけではなく、ただそういう人なだけだ。
 銜えたシーツがあふれ出る唾液を吸い取り、冷たくなって頬に張り付く。その冷たい感
触が嫌で、ボクはシーツを吐き出した。シーツと一緒に抑えていた声も零れる。
「ぅ……、あっ、ん────」
 声は一度溢れると、もう止める手だてがなくなってしまった。
 彼は掠れた声を上げることしかできないボクに後ろから覆い被さって来て、密着させた
腰を小刻みに動かす。彼のベルトの金具が当たって肌が粟だったけれども、すぐにその冷
たさも忘れた。
「苦しいかい?」
 耳朶を軽く咬みながら緒方さんは確認するように訊ねてくる。彼を受け入れたところは
違和感があるだけで、痛くもなく苦しくもない。
 ボクはかぶりを振った。今よりも、指を3本も入れられて体内でバラバラに動かされた
先程の方が余程どうにかなってしまうと思った。


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 彼の指が暴れるたびに、切なくて、訳もなく泣きたくなって、身体と精神が離れていき
そうになるのをボクは何度も堪えたのだ。
 緒方さんがボクの胸に触れる。シーツに擦れて過敏になったそこをしばらく摘んでいた
彼は、不意にボクの胴に腕を回すと、繋がったままのボクを仰向け──緒方さんの上に座
るような格好──にさせた。今までにない深い交合に、身体がブルリと震える。
 縋るものも、ボクの身体を隠すものもなにもない。
 ボクは後ろに手を伸ばし、ボクの腰を持ち上げては落とす緒方さんの腕と、彼の首に触
れた。緒方さんの首を抱いて、ボクは彼の顎に唇を押しつける。
 太いカサの部分がボクの中を行ったり来たりし、それがツルリと抜かれそうになるたび、
ボクは彼にしがみついた。訳もなく叫んだかもしれない。
「オレに掴まるんじゃなくて…、キミが握るのはココだろ?」
 緒方さんはあの独特の声で低く笑い、ボクの手を腕から外させるとボクのあられもない
部分に導いた。
 溢れたものが幹を伝い、ボクの草むらにまで達している。それを知らしめるように塗り
込められて、ボクは両方の脚を閉じて恥じた。
「カワイソウに、トロトロじゃないか」
 緒方さんは笑いながらボクの眼前に濡らした指先を持ってくる。親指と人差し指の間を
繋ぐ銀の糸を見せると、ボクの鼻の頭でそれを切った。


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 自分の体液を鼻先に付けられただけで、ボクはその青臭い匂いを強く感じた。
「や………ンっ」
 拒めるものなら拒みたかった。彼の前で服を脱ぎ、彼に観察されながら一人で慰めることは
今までに何度もあったことだったが、それでもいつも、その行為に後ろめたさが付き纏う。ボ
クを観察する彼の視線が、いつもあまりにも冷徹だったからかもしれない。
 だが今、ボクが触ることを許されて、そして縋ることができるものは自分自身しかなかった。
 緒方さんが突き上げてくるたびに、ボクは夢中になってむき出しのそれを両手で擦り上げる。
「あ…ぁ、――あ……っ…う……」
 進藤が来る前に終わらせなければならない、声を抑えなければならないという理性は彼が与
える快楽の前にほとんど消え去っていた。
 ベッドの上で身体を傾けさせられたり、角度が変わったり、足を広げたりということはあっ
たが、いつもボクの身体は仰向けの彼の上にあって、彼の反り返った砲身を身の内に納めなが
らベッドの足元にあるドアと対面させられている。
 緒方さんの指がボクの浮き出た肋骨を撫で上げ、やがて胸の尖ったところで動きを止めた。
 いつも冷たい指先が、今からどんな悪戯を仕掛けてくるのか――ボクはブレる視界の隅に映
る、彼の美しい指先を確認しながら自分を責め立てる。


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「んっ、」
 2本の指で突起を挟まれた。挟んだふたつの指に乳首をキツク抓られるのは、彼が力を込め
てボクの身体を掴もうとしているからだ。
 速い速度で身体の中を熱く擦り上げる緒方さんを感じながら、ボクの手の動きもフィニッシュ
を迎えるまでは止まりそうになかった。
 もう大分時間が過ぎてしまっているのはボクとて判っている。今にもあのドアをノックする
音が聞こえてきそうな恐怖があるが、それを凌駕する快楽がボクの中には確かに存在していた。
「……い…?………」
 耳朶を含まれ、彼の声を聞こうとした鼓膜の反応が彼の舌に邪魔されて鈍くなる。耳の中は
産毛が生えているから、だからそこを舐められると身体がざわつく。背筋が寒いのも肌が粟立
つのも実は気持ちがいいからで、そのことを教えてくれたのは緒方さんだった。
 案の定、そうされるとボクは一層もどかしく身体を震わせてしまう。
「おが…さ――っも…でちゃ………っ」 
 仰向けになって彼を受け容れたまま、受け止めるものもないままに放つのは抵抗があった。
 ボクはカラカラに乾いた喉を唾液で潤しながら、必死で緒方さんに訴える。
「もうちょっと我慢して」


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 だが、憎らしいほど冷静な声の緒方さんはボクの両手を上から押さえ、動きを封じ込めただ
けだった。
 両手が使えないならもう片方を動かすしかない。ボクは諦めて腰を上下にうねらせた。
「すっかり夢中だね。…そろそろいいよ」
 クスクスと笑いながら緒方さんはボクに許可を与える。腰の動きを止めた彼と、彼に止めら
れた自分の手の代わりに腰を動かしながら、我慢しなければならなかった先程と何か状況が変
わっただろうかとぼんやりと考える。
 とてもそうは思えないが、緒方さんの方もラストスパートに入っていたのだろうか。
 それとも何か別の――?
 そんな時だった。突然目の前が明るくなり、ボクは身体を強ばらせた。
 壁の向こうから長方形に切り取られた光が溢れてくる。
「緒方先生、オレのズボンやっぱり皺が――」
 ノックの音は聞こえなかった。進藤にノックの習慣がなかったのか、ボクが聞き逃したのか、
それは判らないけれど。
 ドアが開いたのは一瞬だったはずなのに、ボクの目にはスローモーションのようにゆっくり
と焼き付いた。
 開け放たれたドアの向こうに、進藤が――ボクの太陽が――目を見開いて立っていた。



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