裏失楽園 11 - 15


(11)
「………!」
 温かいものがそこに触れた。細くて縦横無尽にうねるそれは、ボクの体内に半ば強引に侵入した。
 今まで知り得なかった感触に慌てて背後を振り向くと、床に膝をついた緒方さんの広い肩が見える。
 緒方さんは――あろうことか、ボクの最奥に舌を伸ばしていたのだ。
「…緒方さん……! やめ……っ」
 信じられない。ボクは今までその施しだけは受けたことがなかった。いつもとろとろに溶かされて
彼を受け容れるけれど、彼はいつもその長い指に指サックをつけて準備をすることが多かったのだ。
 大きな声を出したからか、ぐ、とそこに深い侵入を許してしまい、ボクは顔を両手で覆った。
 傾いだ上半身が壁に支えられる。この壁がなかったら、ボクはとうに床に頬をつけ、腰だけを高く
掲げたイヤラシイ格好をとらされていただろう。
 視界が遮られると、緒方さんの舌の温かさとその動きが余計リアルに感じられる。聴覚が研ぎ澄ま
されるのか、彼が潤いを与えるその音までが聞こえるような気がした。自分が自分でなくなりそうな
感覚が全身を支配しそうになり、ボクは顔から両手を引き離した。
「やめてくださ、」
 緒方さんから逃れようと、ボクは身体を捩った。しかし、緒方さんの腕はがっちりとボクを拘束し、
離してくれない。
「――キミがいい子だから、ご褒美だよ」 
 眼鏡が邪魔になったのか、緒方さんは言いながら片手で眼鏡を外した。それを少し離れた床に置いて、
彼は前髪を掻き上げてボクを見上げる。ガラスと長めの前髪に遮られない、彼の美しい瞳が露になった。
「ここだけはオレのもの、なんだろう?」
 色素の薄い切れ長の目にまっすぐ見つめられ、ボクは抵抗を止めた。


(12)
 緒方さんがボクの秘所を舐めている。…その事実はボクをひどく興奮させた。ボクのそこが再び
力を取り戻しはじめると、あれほど触れることを避けていた彼の指がそこに纏わりつき、草むらを
かき分ける。微妙なリズムがボクを支配し始めた。
「んっ……あ…」
 だらしなく開いた口からひっきりなしに声が漏れるのを、ボクは止めることができない。止めよ
うとも思わなかった。緒方さんはこのような場面で、ボクが声を抑えるのを好まないのだ。
「あ―――あ、ぅ…」
 緒方さんはボクを支配する右手を動かしながら立ち上がる。空いた手で胸の突起をつままれ、鋭い
痛みとそれだけではない刺激にボクは背中を反らせた。
「……もういいだろう」
 カチャリと、金属が触れ合う音がする。ついでジッパーが下ろされる音が聞こえ、背中に温かい
ものが触れた。ボクの身体に擦り付けるように動かす。――生身の、彼だ。
 ボクは彼と向き合いたいと思った。緒方さんに触れ、散々焦らされたその砲身を舌で感じたかったが、
彼はボクの中心を握る右手を離そうとせず、またボクはそんな緒方さんに抗うことができないでいる。
 いつでも、どんなときでも、緒方さんはボクの支配者だった。
「――もう少し足を開いて、力を抜きなさい」
 ボクに命じる緒方さんの低い声に、ボクは目を閉じる。彼の手がボクの前から離れ、ボクの双丘を
両手で押し開く感触がし、やがてその入り口に大きな圧力を感じた。
 両手で彼に縋りたかったが、今日の緒方さんはきっとそれを許してはくれない。
 下半身の熱さとは全くちがうあの醒めた目でボクを観察し、そして訊ねるのだろう。『進藤もキミに
縋ったの?』と。
 その部分に絞り出される温かいオイルを感じながら、ならばとボクは思う。
 彼がしたいままに、――彼を全て受け容れよう。


(13)
 ――男の子なのに男を相手に体を売る――そういった商売をする子はね、道具を使ってここを広
げる訓練をするんだよ。
 彼の大きさにボクが四苦八苦していたときだったか、ボクがあまりにも慣れなさ過ぎて彼が辟易
したときだったか、詳しいことは覚えていないが、終わった後で緒方さんがそう言ったことがあった。
 ――ずっと張り型のようなものを入れて、広げておくんだ。…キミもしてみる?
 今から2年以上前のことだ。
 そのころのボクはハリガタというものがどういうものかも知らなかった。
 彼はボクの後孔を清めながら笑っていて、それが冗談だということは彼の表情で判っていた。
判ってはいたが、浮かび上がる不安はどうしても消えなくて、緒方さんの腕に抱かれて少しだけ泣いた。
 緒方さんに身体を売っている訳じゃないとボクは必死で訴え、彼はボクに口付けてやさしく言った
のだ。今まで聞いたこともないような柔らかな声で、「オレの愛人にならないか?」と。
 今でもときどき思うことがある。愛人という厭らしい関係は嫌だと、どうしてあのときボクは拒否
しなかったのだろうと。あの頃よりも前から、……ボクはずっと緒方さんが好きだったのに。

 緒方さんが動くたび、甘くて爽やかで、そんな香りが鼻腔を擽る。
 彼が好んでつけるフレグランスはあの頃と今も変わらない。

「……ぅ……っ、あ……っ」
 ズル、とボクの中で緒方さんが動く。珍しく避妊具を着けていないからか、いつもよりもそこに強
い摩擦を感じ、ボクは湧き上がる奇妙な感覚に追いつけないでいた。頭の中がからっぽになる瞬間が
短い間隔で訪れる。緒方さんに中途半端に煽られたボクの前は、彼に揺さぶられる動きに連動し、痛
いほど張り詰めた。


(14)
 途切れ途切れになる意識がある。内臓がすべて掻き回されるような、吐いてしまいそうになる感覚は
しかし、実際に吐くまでには至らないことをボクは経験で知っている。
 ボクが縋る目の前の壁に、ボクに覆い被さるように緒方さんも手を突いている。カフスがきちん
と留められた青いシャツが目に入り、彼がまだ着衣を少しも乱していないことを改めて認識した。
 緒方さんに少しでも触れたくて、ボクは揺さぶられながら、ボクを激しく揺さぶりつづけている彼の
腕に指を伸ばした。目測を誤り、何度か彼の腕を掠める。
「おが、……ぉがたさん……!」
 ボクは苛立って、彼の名を何度も呼んだ。感情が激してきているのは、きっと、彼に獣のように抱か
れているからだ。
 緒方さんはボクの耳を後ろからキリと噛んだまま、何も言わない。ボクの手を取ることもしなかった。
 ボクは何度か失敗した後、ようやく彼の腕に触れることができた。筋肉質の太い腕は、彼が動くたびに
力強くしなる。その腕に爪を立てようとし――ボクはそれが右腕であることに気づき、手を離した。
「爪を立てたい……? いいぜ、立てても」
 荒い息の中、緒方さんがボクの耳朶に口付けながら笑う。ボクは再び手を伸ばし、二つの手のひらで
彼の腕を抱いた。――この腕の先には、碁石を掴む指がある。決して傷つけてはならない。
 緒方さんの1本の腕で支えられている身体はあまりに不安定で、ボクは彼が動くたびにフラフラと動
いた。ボクのウエストに緒方さんの腕が絡み、神経を直接触られるような刺激が強くなった。
 目を開けている力、立っている力、能動的な力が全て抜け落ちて……自我を失いそうになる。 
「あ…らくん、…こをさわって……そう」
 ボクの手が引き離される。そして別のところに導かれた。緒方さんがしっかりと抱きしめてくれている
ボクのウエストの下へと――


(15)
 ボクは彼に操られる人形になった。彼が導くままにうち震えるところを両手で掴む。羞恥を
感じたのは一瞬で、後は夢中でそこを弄った。
 激しく腰を打ちつけながらも、緒方さんは顎をボクの肩に乗せて冷静にボクを観察している。
 ボクのみだらな手の動きを緒方さんは逐一記憶していて、それを別の機会に活かすのだ。
「――ったら、手を……なさい」
 耳元で彼が囁いている言葉すら、ボクは理解できなかった。ひたすら目の前にある高みを目指し
両手を動かす。手の滑りが格段に良くなって、摩擦による痛みはほとんど感じなくなった。
 ボクの手の動きと、緒方さんのスピードが重なり合う。
 先程も感じたあの感覚が甦ってくる。熱くて、ピリピリと神経に直接触るような、そんな感覚が。
「っ、ぁ……っ」
 身体の力が一気に抜け、膝がカクンと抜ける。緒方さんがボクとの結合を深め、ボクの手からは
受け止め切れなかった体液が零れ落ちた。



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