裏失楽園 13 - 14


(13)
 ――男の子なのに男を相手に体を売る――そういった商売をする子はね、道具を使ってここを広
げる訓練をするんだよ。
 彼の大きさにボクが四苦八苦していたときだったか、ボクがあまりにも慣れなさ過ぎて彼が辟易
したときだったか、詳しいことは覚えていないが、終わった後で緒方さんがそう言ったことがあった。
 ――ずっと張り型のようなものを入れて、広げておくんだ。…キミもしてみる?
 今から2年以上前のことだ。
 そのころのボクはハリガタというものがどういうものかも知らなかった。
 彼はボクの後孔を清めながら笑っていて、それが冗談だということは彼の表情で判っていた。
判ってはいたが、浮かび上がる不安はどうしても消えなくて、緒方さんの腕に抱かれて少しだけ泣いた。
 緒方さんに身体を売っている訳じゃないとボクは必死で訴え、彼はボクに口付けてやさしく言った
のだ。今まで聞いたこともないような柔らかな声で、「オレの愛人にならないか?」と。
 今でもときどき思うことがある。愛人という厭らしい関係は嫌だと、どうしてあのときボクは拒否
しなかったのだろうと。あの頃よりも前から、……ボクはずっと緒方さんが好きだったのに。

 緒方さんが動くたび、甘くて爽やかで、そんな香りが鼻腔を擽る。
 彼が好んでつけるフレグランスはあの頃と今も変わらない。

「……ぅ……っ、あ……っ」
 ズル、とボクの中で緒方さんが動く。珍しく避妊具を着けていないからか、いつもよりもそこに強
い摩擦を感じ、ボクは湧き上がる奇妙な感覚に追いつけないでいた。頭の中がからっぽになる瞬間が
短い間隔で訪れる。緒方さんに中途半端に煽られたボクの前は、彼に揺さぶられる動きに連動し、痛
いほど張り詰めた。


(14)
 途切れ途切れになる意識がある。内臓がすべて掻き回されるような、吐いてしまいそうになる感覚は
しかし、実際に吐くまでには至らないことをボクは経験で知っている。
 ボクが縋る目の前の壁に、ボクに覆い被さるように緒方さんも手を突いている。カフスがきちん
と留められた青いシャツが目に入り、彼がまだ着衣を少しも乱していないことを改めて認識した。
 緒方さんに少しでも触れたくて、ボクは揺さぶられながら、ボクを激しく揺さぶりつづけている彼の
腕に指を伸ばした。目測を誤り、何度か彼の腕を掠める。
「おが、……ぉがたさん……!」
 ボクは苛立って、彼の名を何度も呼んだ。感情が激してきているのは、きっと、彼に獣のように抱か
れているからだ。
 緒方さんはボクの耳を後ろからキリと噛んだまま、何も言わない。ボクの手を取ることもしなかった。
 ボクは何度か失敗した後、ようやく彼の腕に触れることができた。筋肉質の太い腕は、彼が動くたびに
力強くしなる。その腕に爪を立てようとし――ボクはそれが右腕であることに気づき、手を離した。
「爪を立てたい……? いいぜ、立てても」
 荒い息の中、緒方さんがボクの耳朶に口付けながら笑う。ボクは再び手を伸ばし、二つの手のひらで
彼の腕を抱いた。――この腕の先には、碁石を掴む指がある。決して傷つけてはならない。
 緒方さんの1本の腕で支えられている身体はあまりに不安定で、ボクは彼が動くたびにフラフラと動
いた。ボクのウエストに緒方さんの腕が絡み、神経を直接触られるような刺激が強くなった。
 目を開けている力、立っている力、能動的な力が全て抜け落ちて……自我を失いそうになる。 
「あ…らくん、…こをさわって……そう」
 ボクの手が引き離される。そして別のところに導かれた。緒方さんがしっかりと抱きしめてくれている
ボクのウエストの下へと――



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