裏失楽園 17 - 18


(17)
 熱いものが身体の中から外に出て行こうとする。ボクはそれを止めることができず、緒方さんは
チッと鋭く舌打ちをした。恐らく、だらしのないボクに対する苛立ちの現れだ。
 ボクはやるせなく裸のままの身体を竦ませる。
「やはりゴムを着けるべきだったな。…大丈夫かい?」
 ところが彼はボクではなく、自分に怒っているようだった。ボクの後ろの具合を確かめるように
入り口に触れ、そのままボクを横抱きにして立ち上がる。
「バスルームに連れて行こう」
 ボクは両手を緒方さんの首にまわし、身体を持ち上げて彼の首筋に顔を埋めた。そこから香る
フレグランスを嗅ぎ、舌を延ばして滴った汗を舐める。顎を辿り、口の端へと尖らせた舌を伸ばすと、
大股で歩いていた彼の動きが一瞬止まり、噛み付くような口付けを受けた。
「……すき……」
 彼はボクを否定せず、その言葉ごと深い咬合で奪っていく。ボクの身体を幸せが通り抜けた。


(18)
 シャワーのお湯が降り注ぐ中、緒方さんの手が機械的にボクを清めていく。彼は相変わらず着衣を
身につけたままで、腕まくりをしてボクの中を掻き出していた。
 先程ボクの言葉を途中で奪ったその激しさは彼の表情から消え、僅かに寄せた眉根は何かに悩んで
いるようにも、ボクとの行為を悔やんでいるようにも見える。
「もう、大丈夫です」
 ボクは彼の腕を押し、ふらりと立ち上がった。明るいバスルームで裸のまま彼に向かい合うのは
恥ずかしくて、ボクは緒方さんに背中を向けて泡を流す。
「アキラくん」
「はい?」
 顔だけで振り向くと緒方さんに突然腕を取られる。そのままお湯の外に連れ出されてきつく抱きす
くめられた。
「――服、濡れちゃいますよ」
 ボクの身体の水分を吸って、緒方さんの青いシャツは黒く塗り替えられる。離れようとするボクを
緒方さんは決して離そうとはせず、ボクは諦めて彼の背中に腕をまわした。逞しい背中の筋肉が
ピクリと動く。ボクは彼の背中の形を何度も確かめた。
「………もうここには来ない」



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