裏失楽園 49 - 50
(49)
「ああ、アキラくんと寝たんならオマエも知ってるか」
ボクが進藤を抱いたわけであり、決して抱かれてなどいないことを緒方さんは知っているはず
なのに、彼は自分の牡をゆっくりと昂ぶらせながら肩を竦ませる。
「……そんなの、――らねェよっ!」
進藤が自棄になったように叫ぶ。だがその声は、いつもの元気いっぱいの声とはやはり異なり、
不安気に揺れていた。そして、縋るような目でボクを見つめる。
「塔矢、どうして先生にこんなことさせてんだよ……なんでボサっと立って見てんだよ」
身体の中から響いてくるズキズキが、どんどんと酷くなっていく。
ボクは緒方さんを止めるべきなのだろう。しかし、身体が言うことを聞いてくれない。もしか
したら、心のどこかでボクは…進藤が緒方さんに汚され、そしてボクと同じ所まで堕ちてきてく
れるのを期待しているのかもしれなかった。
そして……進藤を食らい尽くしたら、恐らく彼はボクの所に戻ってくる。以前のように全てを
脱ぎ捨てた優しい声で、手で、ボクを正面から抱いてくれるに違いない。そんな期待がないとは
言えなかった。
「塔矢……!」
一向に動き出そうとしないボクに、進藤は焦れた様子で鋭く舌打ちした。
(50)
「アキラくん、これから先はキミの口でやってくれるかい? コイツの口に入れると、すぐ噛み
千切られそうだ」
緒方さんはクスクス笑っている。ボクなら噛み千切らないと、どうしてそう思えるのだろう。
ベッドでのことを口外するのはルール違反だと、ボクは緒方さんにそう教えられてきた。2人の
情事は2人だけの秘め事だと――笑いを含んだ声でそうボクに何度も言い聞かせた緒方さんが、
どうしてワザと進藤を煽るようなことを言う?
ボクの顔を見つめながら、緒方さんはサイドボードから避妊具と潤滑油、そして指にはめる薄い
指サックを取り出した。彼は食器洗いの洗剤や、シャンプー、ボディソープに至るまで、彼が自分
で購入した真白の陶器の入れ物に移し替えて使っている。だが、潤滑油までにはこだわりがないら
しい。
それは恐らく、ボクの部屋にあるものと同じものだが、ボクは彼が実際に使うのを目の当たりに
したことがなかった。彼がボクの身体に受け容れる準備をするころには、ボクの意識はすでに
『あってないようなもの』だったのだ。モノトーンの部屋と場違いなまでのピンクに、ボクは吐き
気すら覚えた。
緒方さんはキャップを乱暴に開けるとそれを傾け、左の掌で潤滑油を受け止める。掌に受け止め
きれなかったものが、筋肉の浮いた腕をとろとろと伝わり、そして肘まで到達した。
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