裏失楽園 57 - 58
(57)
言葉にしてみると、なんて簡単な理由なんだろう。
最初からいろんな人とセックスしているから、だからボクは緒方さんのどこにも違和感を感
じることがなかったのだ。
「――――」
図星なのか緒方さんは一度口を開きかけ、何も言わずに俯いた。ボクは彼の口から親指を引
き抜いて、その唇に彼の唾液を絡ませる。蜂蜜を塗ったトーストを齧ったときのようにつやや
かになった彼の唇をもう一度撫で、ボクは彼の唾液がまだ残っている親指を舐めた。
彼はボクの唾液を味わうたびに「甘い」と言うが、彼の唾液は決して甘くはない。ヘビー
スモーカーだからなのか、それともボクの唾液が甘いという緒方さんの言葉がリップサービス
に過ぎないのか、それはわからないけれど。
ボクは振り返ると、所在無く立ち尽くしていた進藤を見上げた。
進藤はすっかり落ち着いていて、大きな目を瞬かせながらボクたちを見ている。――先刻
まで、ボクがそうしていたように。
「進藤、歩ける? 歩けるようならシャワーを浴びておいでよ」
「う、うん」
進藤はギクシャクと頷き、『洗濯物は乾燥機の中でしょ?』と緒方さんに訊ねながらドアを
開けて出ていった。
(58)
「緒方さん」
ボクはシーツに右の膝を突くと、髪を撫で上げて彼の顔を上げさせた。少し潤んだように
見えた瞳は相変わらずボクをまっすぐに映している。
――この顔を見て、どうして触れずにいられるだろう。
ボクは彼の顔を見つめたまま唇を触れ合わせた。緒方さんは嫌がることもなく、無表情に
ボクの目を見ている。だが、やがて舌を絡め出したのは緒方さんの方で、そうなるとボクは
もう何もできなくなった。
彼にされるがままに歯茎の裏で感じ、同じようにボクも彼の口蓋を舌先で刺激した。
ほんのすぐ傍のバスルームでは進藤が裸になって、シャワーを浴びている。緒方さんに弄
られ、白濁を散らした肌を清めているのだ。なのにボクは、両膝を広いベッドに乗り上げて
緒方さんと互いの唇を貪りあっている。深く、深く。
溢れる唾液はもう顎を伝い、喉を通って落ちてゆく。
ボクは夢中になって緒方さんの柔らかな髪を両手で掻き回し、ふいに伸びてきた彼の腕に
キツク抱きしめられた。
「ふ……、ん」
喉元に噛みついてきた緒方さんの顔を押し戻して、ボクは彼のシンボルに手を伸ばした。
|