裏失楽園 59 - 60
(59)
進藤と相対しているときは自ら昂ぶらせなければならなかった彼の牡は、今や雄々しく天
を見上げている。
ボクはそれを掴むと、力を込めて握り込めた。
一瞬息を詰めた後で低く唸る緒方さんの声を愛しい気持ちで聞く。
緒方さん、と呼びかけると彼は眉根を寄せて閉じていた瞼を薄く開け、薄茶色の瞳でボク
を見た。
「……ボクはこの間、進藤を抱いて、彼とキスをしました」
その瞬間、緒方さんの視線に強い意志が宿る。
進藤ヒカルという太陽をボクのものにした夢のような一瞬。それを改めて言葉にすると、
ひどく遠い昔の出来事のような気がした。
「でも……あなたは進藤とキスをしていない。そうですね」
「――ああ」
掠れた声で応えがあり、ボクはほうっと深く息を吐く。
「よかった………」
進藤と緒方さんがキスをしていなくてよかった。進藤に緒方さんが触れていないのが嬉し
いのか、緒方さんに進藤が触れていないのが嬉しいのか、相変わらず判りかねていたけれど、
素直にそう思った。
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「ボクの味は以前のボクと違いますか?」
彼の応えを待たずに緒方さんの肩に手を置くと、ボクはまた彼の唇に自分のそれを押し付ける。
口に溜まった唾液を舌で掬うようにして彼の口元へと運んだ。何度かそれを繰り返すと、彼の飛
び出した喉仏がゴクリと動いた。ボクの唾液を嚥下したのだ。
「違っていたとしても、これが今のボクです」
彼の口元を親指で拭うと、ボクは彼の陰茎に手を伸ばした。ボクや進藤のそれとは太さが明ら
かに違う幹をマイクを持つように握り、先端にそっと口付ける。
彼が先程使ったローションのせいで、それは人工に作られた苺の味がした。
馴染みの緒方さんの味は舌先に乗ってこない。緒方さんは少しも滲ませてはいなかったのだ。
ボクは緒方さんの身体についたローションを舐め取るようにして、味の濃い部分を舌先で強く
擦る。彼が口の中で膨らむのを確かめながら、ボクは片手で自分のベルトに手を伸ばした。
「ボクは進藤のものもこうして舐めました。あなたが教えてくれた全てで、進藤を抱き――」
「――もういい。オレをこれ以上不快にさせないでくれ」
鋭い舌打ちが聞こえる。以前なら確実に身体を竦ませていたそれを、ボクはどうしてだかやけ
に冷静に受け容れていた。
もうボクのポジションは崖っぷちにいる。進藤と緒方さんのどちらに対してもだ。
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