裏失楽園 6 - 8


(6)
 足が震えて、支え無しには立っていられない。ボクは身体を前のめりにさせて、壁に手をついた。
冷たい壁に火照る頬をおしつけて熱を逃がす。冷たさを感じるのは一瞬で、すぐに壁の冷たさは
ボクの体温と同化して気にならなくなった。
「……いい格好だな」
 背中の窪みに触れながら緒方さんが笑う。それで気づいた。緒方さんが腰を拘束しているから、
ボクの格好は腰だけを彼に向かって突き出したようになっていたのだ。
 慌てて腰を引こうとしたが、緒方さんの腕はビクともしない。それどころか彼は、ボクの
身に付けているパジャマのズボンに手を掛け、そのまま下着ごとずり下ろしはじめた。
 ボクは咄嗟に手で前を押さえる。ボクの下半身は、緒方さんが少し身体を撫でただけで
僅かながらも反応を見せはじめていた。
「…やめて、ください……」
「どうせ、そっちは進藤が触ったんだろう? イヤ、キミが進藤の中に入ったのか」
 冷静な声で参ったなと緒方さんは呟くとボクの手を強引に退かし、ソコを布越しに握り締めた。
「く……っ」
 そのまま形を確かめるように、ゆるゆると撫でられる。
 直接ではなく、着衣の上からのゆるやかな刺激の焦れったさに泣きたくなった。
 緒方さんは片手でボクをじわりじわりと追いつめながら、もう一方の手でボクの髪に触れた。
 彼がベッドに広がる長い髪に色気を感じると言ったから、だから伸ばし始めた髪を。
「全く…キミは誰とでも気軽に寝たりしない、その高潔そうなところが特に気に入ってたんだが」
「あ……っ、ぁ……あッ!」
 不意にぎゅっとそこと強く握り締められ、息が詰まる。
「生憎と、進藤の中に入ったココを可愛がってやれるほどオレの心は広くないんだ」
 耳朶にカリと歯が立てられ――背中を電流が駆け抜けた。


(7)
 もう果ててしまう。ボクは下着とズボンを着けたまま、その中で爆ぜてしまう。
 ボクは震える手で、いやらしい動きを続ける緒方さんの手を掴んだ。
「も……や……っ」
「いやか、――そうか」
 つまらなさそうに吐き捨てる声が聞こえ、思いもかけないほどあっさりとボクは解放された。
「え……?」
 ギリギリで保っていた昂ぶりをもてあまし、ボクは戸惑う。緒方さんが触れていた部分が、熱い。
熱いのに、断続的に与えられた焦れったい刺激を失い、腰が自然と揺れてしまう。
「……ぁ……っ」
 下着に微妙なところが擦れ、その刺激を求めて腰の揺れはひどくなってくる。勿論緒方さんも
そのことに気づいているのだろう。否、彼はボクが自分を慰めることを期待しているのかもしれない。
 それを自覚していながらも、ボクは腰を揺らめかせることを止めることができずにいた。
「案外こらえ性があるじゃないか」
 感心したような声が聞こえ、緒方さんの長い指が口の中に入ってくる。
 口を閉じることも許されず、ボクははしたない声を上げながら唾液を溢れさせた。
「ハハハ、ビショビショだな」
 ボクの口の端から零れた唾液を人差し指で掬って、緒方さんはボクの目の前に見せつけた。ボクの
唾液が糸を引いて、ぷつりと切れる。
 骨張った長い指がボクの胸の上を滑っていく。冷たいラインが身体に纏わりつくような感触に、
ボクは身体をくねらせた。
 ――もう少しで。あとほんの僅かな刺激さえあれば達することができる。
 ボクは緒方さんがいつも与えてくれる快感を頭に思い浮かべた。


(8)
 緒方さんの長い指。胸から背中へと、緒方さんの指が辿った痕跡がいつまでも残っている。
「おが…た、さん」
「――うん?」
 彼の名を呼ぶと、すぐに応えがあった。肩口に軽く歯が立てられる。
「んっ」
 首を仰け反らせると、緒方さんの指がすうっと首筋を撫ぜた。
 彼は相変わらずボクの後ろにいて、その表情は全くわからない。
 快感を求めるボクを彼がどういう表情で見ているのか、ボクには想像もつかなかった。
 緒方さんはいつもボクに対して優しかったけれど、ボクに触れるとき、彼はいつもどこかが醒めていた。
そういう気がする。何度となく肌を合わせたが、冷たささえ感じられるような整った顔は涼しげで、
いつもボクだけが蕩けさせられたのだ。
 いつも、ボクだけが。――今まで目を背けてきた事実というものを突然認識し、ボクは急に不安になった。
「おがたさん…」
 後ろ手に手を伸ばすと、指先を捉えられる。大きな緒方さんの手に包まれて、ボクは自分の昂ぶりに触れた。
手をそこから離したくても、彼の手の力は強く、振りほどくこともできない。
「腰が揺れてる。――もう達きたいかい?」
 剥き出しの双丘を撫でられる感触がする。優しい声で訊ねられ、ボクはガクガクと頷いた。
「そう。――なら、自分でやってごらん」
 緒方さんの手に導かれるまま、ボクの手はズボンの前を数度撫でた。電流がそこからビリビリと背筋を
駆け上がる。ここに触れてるのはボクだ。だけどボクの手に意志はない。意志があるのは、触れているのは
緒方さんだ。緒方さんの手がボクを――。
「……ぁ……っ!」
 何か強烈なものが全身を駆け抜け、生温かいものが溢れてくる。
 膝がカクンと抜けそうになると、緒方さんがもう片方の手で抱き留めてくれた。
「本当にキミは……いつも仔猫が鳴くようなかわいい声を出すね」



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