裏失楽園 61 - 62


(61)
 そのことを知っていたからかもしれない。あれほど痛かった鳩尾の痛みも、頭に鳴り響いてい
た耳鳴りも、こめかみを圧迫していた心臓の鼓動も気にならなくなっていた。
 ボクはようやく片手でベルトのバックルを外しすと、今度はボタンに指をかける。
「もう、緒方さんしか知らなかった頃には戻れないんです」
 ボクは進藤が欲しかった。ライバルとしてでも……友情でも愛情でも良かった。あの太陽の強
烈なそれに似た光を、ボクは傍に置いておきたいと願ったのだ。
 しかし、ボクが彼のところにまで行くのは、何も知らなかった頃に戻るのは無理だった。
「彼をボクと同じ場所へ堕としてやりたかったんです。だから進藤を抱いて……でも、ボクはあ
なたとも離れられない」
 早くしなければ進藤が帰ってきてしまう、その思いがボクを更に焦らせた。
 ボクは唇を湿らせると喉の奥へと彼を呑み込み口蓋と舌で彼を愛撫し、空いた両手でボタンを
外した。
「フ…ン、強欲だな」
 ジッパーを下ろすと、スラックスと下着を一緒に掴んで引き摺り下ろす。
「これが、ボクなんです」
 そうだ、ボクは強欲なのだ。緒方さんが知らなかっただけで。
「……あなたしか知らなかったころと、今のボクが違うというのなら、いっそ慣れてください」


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 膝のあたりを拘束していた衣類を蹴り散らすと、ようやく自由を得た気がした。
 ボクは彼自身を口で愛撫し続ける。そして空いた手を交互に使い、ボクは自分の後孔を解して
いった。緒方さんが進藤に使った苺の味がするローションを手に掬い、冷たいそれを温めること
もせず後ろへ運ぶ。
「……するつもりなのか?」
 後ろ手を突いたまま、その逞しい身体をボクに預けていた緒方さんが低い声で訊ねる。
 ――何を今更。そんなの当たり前でしょう。
「ええ」
 ボクは短く答え、手のひらに掬ったローションを慎重に自分の後ろに塗り込めることに専念し
た。しかし、喉の奥を突いてくる彼に翻弄され、慣れないボクの手はそこ以外の場所にまでベタ
ベタした液体を広めてしまう。両手がローションで滑り、瓶を何度も落としそうになった。
「一人では上手くできないだろう。貸しなさい」
 口がおろそかになったことに気づいたのか、緒方さんはベッドヘッドに凭せ掛けていた背中を
起こし、ボクの左手から小瓶を取り上げた。



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