裏失楽園 67 - 68


(67)
 彼の指が暴れるたびに、切なくて、訳もなく泣きたくなって、身体と精神が離れていき
そうになるのをボクは何度も堪えたのだ。
 緒方さんがボクの胸に触れる。シーツに擦れて過敏になったそこをしばらく摘んでいた
彼は、不意にボクの胴に腕を回すと、繋がったままのボクを仰向け──緒方さんの上に座
るような格好──にさせた。今までにない深い交合に、身体がブルリと震える。
 縋るものも、ボクの身体を隠すものもなにもない。
 ボクは後ろに手を伸ばし、ボクの腰を持ち上げては落とす緒方さんの腕と、彼の首に触
れた。緒方さんの首を抱いて、ボクは彼の顎に唇を押しつける。
 太いカサの部分がボクの中を行ったり来たりし、それがツルリと抜かれそうになるたび、
ボクは彼にしがみついた。訳もなく叫んだかもしれない。
「オレに掴まるんじゃなくて…、キミが握るのはココだろ?」
 緒方さんはあの独特の声で低く笑い、ボクの手を腕から外させるとボクのあられもない
部分に導いた。
 溢れたものが幹を伝い、ボクの草むらにまで達している。それを知らしめるように塗り
込められて、ボクは両方の脚を閉じて恥じた。
「カワイソウに、トロトロじゃないか」
 緒方さんは笑いながらボクの眼前に濡らした指先を持ってくる。親指と人差し指の間を
繋ぐ銀の糸を見せると、ボクの鼻の頭でそれを切った。


(68)
 自分の体液を鼻先に付けられただけで、ボクはその青臭い匂いを強く感じた。
「や………ンっ」
 拒めるものなら拒みたかった。彼の前で服を脱ぎ、彼に観察されながら一人で慰めることは
今までに何度もあったことだったが、それでもいつも、その行為に後ろめたさが付き纏う。ボ
クを観察する彼の視線が、いつもあまりにも冷徹だったからかもしれない。
 だが今、ボクが触ることを許されて、そして縋ることができるものは自分自身しかなかった。
 緒方さんが突き上げてくるたびに、ボクは夢中になってむき出しのそれを両手で擦り上げる。
「あ…ぁ、――あ……っ…う……」
 進藤が来る前に終わらせなければならない、声を抑えなければならないという理性は彼が与
える快楽の前にほとんど消え去っていた。
 ベッドの上で身体を傾けさせられたり、角度が変わったり、足を広げたりということはあっ
たが、いつもボクの身体は仰向けの彼の上にあって、彼の反り返った砲身を身の内に納めなが
らベッドの足元にあるドアと対面させられている。
 緒方さんの指がボクの浮き出た肋骨を撫で上げ、やがて胸の尖ったところで動きを止めた。
 いつも冷たい指先が、今からどんな悪戯を仕掛けてくるのか――ボクはブレる視界の隅に映
る、彼の美しい指先を確認しながら自分を責め立てる。



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