裏失楽園 7 - 8


(7)
 もう果ててしまう。ボクは下着とズボンを着けたまま、その中で爆ぜてしまう。
 ボクは震える手で、いやらしい動きを続ける緒方さんの手を掴んだ。
「も……や……っ」
「いやか、――そうか」
 つまらなさそうに吐き捨てる声が聞こえ、思いもかけないほどあっさりとボクは解放された。
「え……?」
 ギリギリで保っていた昂ぶりをもてあまし、ボクは戸惑う。緒方さんが触れていた部分が、熱い。
熱いのに、断続的に与えられた焦れったい刺激を失い、腰が自然と揺れてしまう。
「……ぁ……っ」
 下着に微妙なところが擦れ、その刺激を求めて腰の揺れはひどくなってくる。勿論緒方さんも
そのことに気づいているのだろう。否、彼はボクが自分を慰めることを期待しているのかもしれない。
 それを自覚していながらも、ボクは腰を揺らめかせることを止めることができずにいた。
「案外こらえ性があるじゃないか」
 感心したような声が聞こえ、緒方さんの長い指が口の中に入ってくる。
 口を閉じることも許されず、ボクははしたない声を上げながら唾液を溢れさせた。
「ハハハ、ビショビショだな」
 ボクの口の端から零れた唾液を人差し指で掬って、緒方さんはボクの目の前に見せつけた。ボクの
唾液が糸を引いて、ぷつりと切れる。
 骨張った長い指がボクの胸の上を滑っていく。冷たいラインが身体に纏わりつくような感触に、
ボクは身体をくねらせた。
 ――もう少しで。あとほんの僅かな刺激さえあれば達することができる。
 ボクは緒方さんがいつも与えてくれる快感を頭に思い浮かべた。


(8)
 緒方さんの長い指。胸から背中へと、緒方さんの指が辿った痕跡がいつまでも残っている。
「おが…た、さん」
「――うん?」
 彼の名を呼ぶと、すぐに応えがあった。肩口に軽く歯が立てられる。
「んっ」
 首を仰け反らせると、緒方さんの指がすうっと首筋を撫ぜた。
 彼は相変わらずボクの後ろにいて、その表情は全くわからない。
 快感を求めるボクを彼がどういう表情で見ているのか、ボクには想像もつかなかった。
 緒方さんはいつもボクに対して優しかったけれど、ボクに触れるとき、彼はいつもどこかが醒めていた。
そういう気がする。何度となく肌を合わせたが、冷たささえ感じられるような整った顔は涼しげで、
いつもボクだけが蕩けさせられたのだ。
 いつも、ボクだけが。――今まで目を背けてきた事実というものを突然認識し、ボクは急に不安になった。
「おがたさん…」
 後ろ手に手を伸ばすと、指先を捉えられる。大きな緒方さんの手に包まれて、ボクは自分の昂ぶりに触れた。
手をそこから離したくても、彼の手の力は強く、振りほどくこともできない。
「腰が揺れてる。――もう達きたいかい?」
 剥き出しの双丘を撫でられる感触がする。優しい声で訊ねられ、ボクはガクガクと頷いた。
「そう。――なら、自分でやってごらん」
 緒方さんの手に導かれるまま、ボクの手はズボンの前を数度撫でた。電流がそこからビリビリと背筋を
駆け上がる。ここに触れてるのはボクだ。だけどボクの手に意志はない。意志があるのは、触れているのは
緒方さんだ。緒方さんの手がボクを――。
「……ぁ……っ!」
 何か強烈なものが全身を駆け抜け、生温かいものが溢れてくる。
 膝がカクンと抜けそうになると、緒方さんがもう片方の手で抱き留めてくれた。
「本当にキミは……いつも仔猫が鳴くようなかわいい声を出すね」



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