裏失楽園 71 - 75
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「と……」
彼に見られていることが判っているのに、手の動きを止められないでいるのは、惰性というよ
りもむしろ本能に近かった。
進藤の足が一歩後ろに下がる。それは進藤がボクに対して抱いている心情のようにも思えた。
「――見るな!」
ボクは叫んで、いやらしい指が一気に暴走しそうになるのを必死で押さえ込む。きちんと声が
出たかどうかは判らなかったが、そう口にせずにはいられなかった。
彼に抱かれて、それだけでは飽き足らずに自分を夢中になって慰めている。ボクはそんな風に
進藤の大きな目に映っているのだろう。
そして、それはやはりボクそのものなのだ。
ボクの背後で、緒方さんの喉が低く笑みを刻む。彼の喉仏が震える振動を頭で感じた。
「いいところに来たな、進藤。――そこから、オレたちが繋がってるのが見えるか?」
緒方さんの怒張したものは先程からずっとボクの身体の中深くに埋まっている。だが、それは
より深い繋がりをボクに強要していた。
緒方さんはボクの左右の太股を下から掬い上げるようにして持ち上げる。ズル…と、それまで
身体の飢えを存分に満たしていた栓を抜かれるような感触がし、ボクはそこに力を入れるべきか
脱力すべきか判断がつかなくなった。
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不安定な体勢のボクを支えているものは緒方さんの両腕と、ボクの身体深くに打ち込まれた杭。
それから上半身を預けている彼の逞しい肉体そのものだ。
「…アキラくん、そんなに締め付けないでくれないか」
「あ……ぅっ」
緒方さんがボクの身体を軽く揺さぶりながら笑う。彼が進藤に聞こえるように言っているのは
明らかだった。そして、ボクの身体を抱え直しながら『誘ったのはキミだっただろう?』と小さ
く囁く彼に、ボクは奥歯を噛み締めることしかできない。
信じられないことに、彼の陰茎は進藤に見られながらもなおボクの中で成長を続けていた。
彼の成長を感じるたびに、ただでさえ極限状態にまで広げられた部分がボクの中で声にならな
い悲鳴を上げる。
「ほら、手を退かしなさい」
ボクに軽く命じる緒方さんの声は喜色に溢れていた。彼が“第三者に行為を見られている”と
いうシチュエーションに興奮していることは容易に知れた。
「アキラくん」
彼はボクを持ち上げている両手をボクの大腿部から離すと、いきり立つ局部を隠していたボク
の腕に軽く触れる。
「手を退かして、キミの感じているところを進藤に見せてあげなさい」
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興奮しているからか、ボクの腕に置かれた彼の手のひらはやけに熱かった。
それでもさらりとしているのは、彼があまり汗をかかない体質だからかもしれない――そん
なことを考えて気を紛らわせているボクの側で、『それとも…』と緒方さんは続ける。
「進藤に慰めてもらうか?」
「何を馬鹿なことを……!」
「アキラくん、キミと進藤はセックスしたんだろう? ならば何も恥ずかしがることはない。
…いや、そもそもキミの身体はどこもかしこも綺麗で、誰に見られても恥ずかしいものではな
いんだが」
自分の足だけで不安定な態勢を保っていたボクは観念した。両手を離して前屈みになり、シ
ーツの上に手を突く。極限状態まで力を入れていた膝はみっともなく震えていた。
「コラ、抜けるじゃないか」
呆れたような声とともに強引な力で引き戻され、ボクは彼の身体の上に倒れ込んだ。厚い胸
板に完全に身体を預けると、ボクが傾いたせいで中の彼の角度が変わり、ボクの身体の中の思っ
てもみなかった部位に彼の圧迫を感じた。
「いつ見てもキミは本当に綺麗だ」
緒方さんはボクの肩越しに下半身を覗き込む。目を閉じて奥歯を噛み締めていると、温かな
彼の両手はボクの膝の裏にゆっくりと移動していった。
それだけで、ボクには彼の行動がすっかり判ってしまった。
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以前もこんな風にボクは彼に抱かれたことがあった。一度や二度ではなかった。鏡と向かい
合ってボクの身体を開くたびに彼は――映されたボクの身体の様子を逐一口にしたのだ。
「やめてくださ……!」
こういう行為をボクが嫌がることを、緒方さんはよく知っている。しかし、その後で決まっ
て優しくなる彼を、ボクがどれだけ愛してしまっているのかも彼は熟知しているのだ。
彼の強い力にボクの足は胸につくほどまで上げられてゆく。
「本当は誰にも見せるつもりはなかったんだが、アキラくんと寝たことのあるオマエには特別
に見せてやる。これが――アキラくんだ」
「進藤、帰ってくれ……!」
ボクよりもずっと幼く見える彼の目の前でゆっくりと足を開かされながら、ボクは進藤に懇
願した。彼の制服のズボンは確かに皺がついていて、シャツにも何か赤い染みのようなものが
広がっていたが、外に出られないほどのものではない。
「帰れって言われても、そんなおまえ置いて帰れるかよ……そんな――」
進藤はベッドの端のあたりに視線をうろつかせて口の中でごにょごにょと何か喋っているが、
ボクには理解できなかった。進藤自身が何を喋っているかをよく判っていないのかもしれない。
「――進藤。オマエも男なら、アキラくんのこの状態がどんなに辛いか判るだろう?」
緒方さんは教師が子供に物事を教えるような口調で進藤に声をかけ、ボクの身体の中を擦り
たてた。それに合わせて、膨れ上がったボク自身が震えるのが嫌でも視界に入ってくる。
それは、進藤の目に曝されてもなお、新しい刺激を求めていた。
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ボクは両手で自分の膝を掴み、緒方さんに強く凭れる。一度進藤の視線に晒されて、焼け付
くような羞恥が駆け抜けた後は諦めにも似た思いに苛まれた。
だが、しばらくするとこの状況――進藤の目の前で、緒方さんに拓かれいるという――がボ
クに酷い陶酔と興奮をもたらしてくる。
「身体がとても熱くなってるね。キミの熱でオレも溶かされそうだ。……もう耐えられそうに
ないかい?」
「わ…かって……で、しょう…!」
「ああ、判ってるよ。キミのことならなんでも。例えば――感じすぎると泣いてしまうことや、
右よりも左の胸の方が敏感なこともね」
緒方さんの指が唇の端に触れた。ボクがだらしなく溢れさせてしまった唾液を掬うと、右の
乳首と左のそれを交互に撫ではじめる。緒方さんのいやらしい動きは右も左も同じなのに……
確かに、ボクの方は緒方さんの言うとおりだった。
「……」
緒方さんの鼻先が頭に押し付けられた。彼は髪を伸ばすようにボクに言うほどにはボクの髪
を気に入っていた。今も鼻先で髪を掻き分け、口に銜えたり引っ張ったりして愉しんでいる。
前髪や横の髪を掻き上げられ、促されるままに横を向くと彼のくちづけが落ちてきた。緒方
さんの唇はボクの唇を何度も挟み、時にはぺろぺろと上辺だけを舐められる。
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