裏失楽園 73 - 74


(73)
 興奮しているからか、ボクの腕に置かれた彼の手のひらはやけに熱かった。
 それでもさらりとしているのは、彼があまり汗をかかない体質だからかもしれない――そん
なことを考えて気を紛らわせているボクの側で、『それとも…』と緒方さんは続ける。
「進藤に慰めてもらうか?」
「何を馬鹿なことを……!」
「アキラくん、キミと進藤はセックスしたんだろう? ならば何も恥ずかしがることはない。
…いや、そもそもキミの身体はどこもかしこも綺麗で、誰に見られても恥ずかしいものではな
いんだが」
 自分の足だけで不安定な態勢を保っていたボクは観念した。両手を離して前屈みになり、シ
ーツの上に手を突く。極限状態まで力を入れていた膝はみっともなく震えていた。
「コラ、抜けるじゃないか」
 呆れたような声とともに強引な力で引き戻され、ボクは彼の身体の上に倒れ込んだ。厚い胸
板に完全に身体を預けると、ボクが傾いたせいで中の彼の角度が変わり、ボクの身体の中の思っ
てもみなかった部位に彼の圧迫を感じた。
「いつ見てもキミは本当に綺麗だ」
 緒方さんはボクの肩越しに下半身を覗き込む。目を閉じて奥歯を噛み締めていると、温かな
彼の両手はボクの膝の裏にゆっくりと移動していった。
 それだけで、ボクには彼の行動がすっかり判ってしまった。


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 以前もこんな風にボクは彼に抱かれたことがあった。一度や二度ではなかった。鏡と向かい
合ってボクの身体を開くたびに彼は――映されたボクの身体の様子を逐一口にしたのだ。
「やめてくださ……!」
 こういう行為をボクが嫌がることを、緒方さんはよく知っている。しかし、その後で決まっ
て優しくなる彼を、ボクがどれだけ愛してしまっているのかも彼は熟知しているのだ。
 彼の強い力にボクの足は胸につくほどまで上げられてゆく。
「本当は誰にも見せるつもりはなかったんだが、アキラくんと寝たことのあるオマエには特別
に見せてやる。これが――アキラくんだ」
「進藤、帰ってくれ……!」
 ボクよりもずっと幼く見える彼の目の前でゆっくりと足を開かされながら、ボクは進藤に懇
願した。彼の制服のズボンは確かに皺がついていて、シャツにも何か赤い染みのようなものが
広がっていたが、外に出られないほどのものではない。
「帰れって言われても、そんなおまえ置いて帰れるかよ……そんな――」
 進藤はベッドの端のあたりに視線をうろつかせて口の中でごにょごにょと何か喋っているが、
ボクには理解できなかった。進藤自身が何を喋っているかをよく判っていないのかもしれない。
「――進藤。オマエも男なら、アキラくんのこの状態がどんなに辛いか判るだろう?」
 緒方さんは教師が子供に物事を教えるような口調で進藤に声をかけ、ボクの身体の中を擦り
たてた。それに合わせて、膨れ上がったボク自身が震えるのが嫌でも視界に入ってくる。
 それは、進藤の目に曝されてもなお、新しい刺激を求めていた。



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