裏失楽園 77 - 78
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触って。ボクに触って。
やがて神の一手を紡ぎだすかもしれない、――それともボクにもたらすかもしれない。
そんな無限大の可能性を孕んだその指で。
「…触って――…」
ボクの希みを何度か繰り返しているうちに、進藤はゆらりゆらりと揺れながらボクの前に近
づいて来た。灯りを抑えた緒方さんの暗い部屋では、彼の明るい前髪の色も落ち着いて見える。
「――って……」
光の加減で進藤の顔がよく見えない。そのことが残念な気がしたし、またその逆でもあった。
進藤がどういう表情でボクを見ているのか――発情したボクを憐れんでいたり、呆れて見てい
るだけだとしたら、ボクは酷く惨めな気分になるだろう。
「………」
ギシとベッドを軋ませて、一歩一歩確実に近づいてきていた進藤はベッドの上に膝で乗り上
げてきた。この広い寝室にいくつも置かれたライトに照らされて、進藤の容貌が露になる。
ボクと対峙した進藤は……まるで無表情だった。
細い顎も、無駄な肉を削ぎ落としたような頬も、そして大きな瞳も、何一つボクに訴えかけ
てはくれない。いつもは言葉以上に雄弁なそれらを、ボクはぼやける視界に捉えた。
「しん、ろ……」
ゆっくりと、ボクは彼の名を呼んだ。進藤はスッと顔を寄せ、ボクの顔を凝視する。
進藤、キミはボクのこんな姿を見て、それでもボクをライバルと認めてくれるだろうか?
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進藤の視線がボクの顔からゆっくりと下がってゆく。
ライバルと思ってくれなくてもいい。この熱を沈めてくれさえすれば。――今、ボクはそん
な危うい本能にあっさりと敗北し、緒方さんに貫かれるまま彼の前に身を投げ出す。
脚を閉じようとは思わなかった。ボクはむしろどれだけ飢えているのかを見せつけるべく、
彼に対して一層無防備になった。
両脚を広げると、後ろで受け容れている緒方さんのカタチがよく判る。
その熱さも、固さまでも。
「ああ――イイね」
こんな風にしてみたかった。緒方さんはボクの内部に深く注挿を繰り返しながら呟く。
「進藤に触られたらキミはとても興奮するんだろう? 早く見せてくれ」
そしてそんなボクを見て、緒方さんは興奮するのだろう。緒方さんと一つになっているか
らか、彼の気持ちがボクには手に取るように判ってしまう。
「さぞ綺麗だろうね…」
ギシ、と再びベッドが悲鳴をあげた。ボクの両方の膝をそれぞれの手で掴んで、進藤は
ゆっくりと腰を屈める。
…ああ、この近さなら暗くても彼の髪の明るいのがよく判る。
ボクは彼の柔らかな髪に両手でそっと触れた。
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