裏失楽園 83 - 84
(83)
あの日、進藤を抱いたのはボクだ。緒方さんと進藤の2人が欲しかったのもボクだ。
2人とも欲しくて、でもどちらも選べなくて、その結果がコレだ。
ボクはすでに性に奔放で、進藤のように純粋にはなれない。だから進藤をボクの位置
にまで貶めてやりたかった。かつて緒方さんがボクにそうしたように。
しかし、進藤はボクとは根本的なところが違っていたのだ。
散漫になる思考の中、ボクはぐるぐると同じ言葉を繰り返す。呪文のように。
どうすればいい? どうすればボクは――――
「進藤、オマエはあ――行ってろ!」
ボクの身体を後ろから抱きかかえたままの緒方さんが、ボクが聞いたこともないよう
な低い声で怒鳴る。その声は一瞬歯の噛み合う音を駆逐したが、またすぐに効果を無く
した。
どうすればボクは進藤と同じところで輝けるのだろう。
「とう――」
「出てい……と言ってるのが判らな――か!」
二人のやり取りはボクの中で大きくなったり、小さくなったりして聞こえる。
「しばら――ってくるな」
進藤はぎこちなく頷くと、ボクを心配そうな顔で見ながらドアを開け、ドアの向こう
に消えた。静寂の中、ボクの歯が鳴る音だけが聞こえる。
「アキラくん」
ボクの名を囁くと、緒方さんがボクの身体を持ち上げた。打ち込んだ杭を軸にしてボ
クの身体をゆっくりと向かい合わせると、互いの胸を重ねて抱きしめてくる。
(84)
抱きしめられてベッドの上に倒されると、ボクの中の緒方さんがまた角度を変えた。
「――い?」
歯が不愉快な音を立てているのは、ボクが寒いからだと思ったのだろう。彼は眉を顰
めながら両手でボクの肩や腕をひとしきり撫でた。
眉を顰めている他はまるで無表情なのに、ボクを撫で摩る手のひらと、ボクをじわじ
わと侵している緒方さんの砲身は熱く、その熱を感じているうちに混乱が少しずつ治まっ
て来る気がした。
しかし、酷い頭痛と耳鳴りはまだ治まらず、ボクは緩慢に首を振ることしかできない。
緒方さんはボクの髪を梳きながら片肘を突いた。
無表情な顔が近づいてきて、目の焦点が合わなくなる。
口を温かなものに塞がれた息苦しさと、口腔内を暴れまわる柔らかく固いものの存在
に、ボクは彼のキスを受けていることにようやく合点した。しかし、彼の舌の動きにい
つものように合わせることはどうしてもできないでいる。
緒方さんはそれでも構わないようだったが、ただ、より深い咬合を求められた。
上顎の奥を舌で刺激されると、神経に直接触られたようで無意識に身体が反応する。
手と脚が触れ合い、内部でも深く繋がっているから、ボクの震えが緒方さんにも伝わ
るのは当然のことで、ボクが身体をブルリと震わせたのを契機に、剥き出しのボクは緒
方さんの手に握り込まれた。
「……くっ、ん……!」
進藤の愛撫を待ちかねて震え、結局触ってもらえずにいたボクは既に爆ぜる寸前だった。
|