裏失楽園 9 - 11


(9)
 首筋にいくつもの口付けを受けながら、ボクは放心していた。緒方さんが何事かを囁きながらズボンに
手をかけるのも、気にならなかった。
「……たの?」
 今すぐにでも眠ってしまいたいほどの安堵感を得たのも束の間、熱を持ったものが外気に晒され、
その冷たさに一気に我に返る。
「……え……?」
 ボクはぼんやりと聞き返した。緒方さんはクスクスと笑いながら、ボクのズボンを引き摺り下ろす。
 湿った感触で足首を拘束するそれらをボクは足で退かした。
「進藤にも、聴かせた?」
 身体を両手で探りながらも、緒方さんは意地悪だ。声はとてつもなく穏やかで、なのに言葉はボクの
内側を鋭い刃で傷つける。ボクは壁に手をついて何度も首を振った。
「ふうん…」
 ――やがて、その指はボクの剥き出しの部分に辿り着いた。ずっと外気に晒されていて、そこは
緒方さんの手のひらよりも冷えていた。ボクの双丘を撫でる彼の体温を、珍しい思いで感じる。
「ねえ緒方さん、ベッドに――」
「進藤とも使ったんだろう」
 切り口上で決め付けられると、もう何も言えなくなる。ボクは固い壁に爪を立てた。
 それほど進藤とのことを気にしている素振りを見せるから、ボクは誤解してしまう。緒方さんがボクたちの
間にあったことに嫉妬しているのではないかと。そんな訳はない。緒方さんは基本的に恋愛に興味のない人だ。
 彼は神経質で、どこか潔癖なところがある。実際にはボクが進藤を抱いたのだけれど、結果的に他人が
触れたボク、というのを嫌悪しているのだろう。そして自信家の彼らしく、それを隠そうともしない。
「知らなかったか? オレは独占欲が強いんだ。誰かを他のヤツと共有しようとは思わない」
 …じゃあ、どうして緒方さんは今もこうしてボクを苛んでいるんだろう。ボクは混乱する頭の中で思った。


(10)
 緒方さんの指がボクの秘所に触れた。2・3度軽く撫でられたかと思うと、ノックするように
ピタピタと刺激を与えられる。抜けそうになる膝の力を、ボクは必死に押し止めた。
「…ベッドも同じだ。キミが他の誰かと一緒に楽しんだベッドを、どうしてオレが使える――?」
 ボクは唇を噛み締めた。ここにも進藤が触れたのかと、きっと緒方さんはボクに問い、ボクを
傷つけて愉しむのだろう。
 何かにつけて進藤を思い出させる緒方さんが憎くて、でもボクが緒方さんを求めているのも事実で。
モジモジと動き出す腰を制止する術も、彼へ体裁を取り繕う余裕もなかった。
 どれだけ傷つけられても、仮に弄ばれていたとしても、ボクは緒方さんが欲しかったのだ。 
「触らせてない……。誰にも、進藤にも――――」
 緒方さんが口を開く前に、ボクは熱に浮かされるように告白する。彼の指からの刺激が一瞬
途絶え、ボクは再度繰り返した。
「オレだけ?」
「んっ、おが…たさんだけ――」
 緒方さんの指が一度離れ、そこと性器の間を爪先で辿る。ボクは咄嗟に彼の左手を両足で
挟んだ。両足のあいだで、緒方さんの指は自由に動き、悪戯にボクを苛む。
「緒方さんだけ――なんです」
「そう」
 次第に荒くなりはじめた彼の吐息が、ボクの髪を擽る。ボクはそれ以上に興奮していた。
 緒方さんは背中にいくつかキスを落とすと、ボクの腰を両腕で抱きしめる。
「――いい子だ」


(11)
「………!」
 温かいものがそこに触れた。細くて縦横無尽にうねるそれは、ボクの体内に半ば強引に侵入した。
 今まで知り得なかった感触に慌てて背後を振り向くと、床に膝をついた緒方さんの広い肩が見える。
 緒方さんは――あろうことか、ボクの最奥に舌を伸ばしていたのだ。
「…緒方さん……! やめ……っ」
 信じられない。ボクは今までその施しだけは受けたことがなかった。いつもとろとろに溶かされて
彼を受け容れるけれど、彼はいつもその長い指に指サックをつけて準備をすることが多かったのだ。
 大きな声を出したからか、ぐ、とそこに深い侵入を許してしまい、ボクは顔を両手で覆った。
 傾いだ上半身が壁に支えられる。この壁がなかったら、ボクはとうに床に頬をつけ、腰だけを高く
掲げたイヤラシイ格好をとらされていただろう。
 視界が遮られると、緒方さんの舌の温かさとその動きが余計リアルに感じられる。聴覚が研ぎ澄ま
されるのか、彼が潤いを与えるその音までが聞こえるような気がした。自分が自分でなくなりそうな
感覚が全身を支配しそうになり、ボクは顔から両手を引き離した。
「やめてくださ、」
 緒方さんから逃れようと、ボクは身体を捩った。しかし、緒方さんの腕はがっちりとボクを拘束し、
離してくれない。
「――キミがいい子だから、ご褒美だよ」 
 眼鏡が邪魔になったのか、緒方さんは言いながら片手で眼鏡を外した。それを少し離れた床に置いて、
彼は前髪を掻き上げてボクを見上げる。ガラスと長めの前髪に遮られない、彼の美しい瞳が露になった。
「ここだけはオレのもの、なんだろう?」
 色素の薄い切れ長の目にまっすぐ見つめられ、ボクは抵抗を止めた。



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